提言10: 新任教員に対する校長の指導・支援

 団塊世代の教員の退職により、多くの新任教員が学校に配置されてきた。新鮮な空気を各学校では歓迎するとともに新任教員の活躍と成長・発達を期待している。

 しかし、今、学校教育は多くの課題を抱えている。ベテラン教員が課題への対応に苦慮している事例も少なくない。この現状において、新任で経験の浅い教員にとって毎日の活動は必ずしも容易ではない。学校全体で組織として彼ら彼女らを支援していくことが必要である。特に、校長・副校長の新任教員に対する指導・支援が重要になる。一般論では論じにくいが、校長・副校長の指導・支援の在り方の基本について提言をしたい。

【教科指導について】

 教員の活動の中心は教科指導にあるとも言える。特に、近年、学力向上への要望が強くなってきており、教科指導の充実は緊急の課題とも言える。しかし、教科内容・教科学習の方法等は大きく変化しつつある。学習指導要領の改訂もあり、教科指導は必ずしも容易ではない。この点については、新任教員としてもその責任を全うすることが当然要請される。校長を責任者として、各教職員からの指導・支援が重要になってきている。

1)年間指導計画

 学校では、年度の教科指導の反省(リフレクション)に基づき、年度末に自己の担当する学級・教科についての年間指導計画を組織的に策定している。新規採用教員は、自分がかかわったものではない年間指導計画に基づき教科指導を展開することなる。そこで、ねらいや特色ある学習活動等、年間指導計画の趣旨について教務担当主幹等から丁寧に説明することが必要になる。

2)授業参観

 まず、校長・副校長が授業を参観することが必要であろう。本HPでは、「提言T」において、校長の授業参観の在り方について示している。それを参考に的確な指導・支援することを期待したい。

3)授業の構想

 単元ごとの授業の展開を、およそ次のように理解することができるのではないか。

@ 漠然たる課題の感知━児童生徒が事実に出会い、漠然とした課題を感ずる。

A 学習課題設定━課題意識は放置しておくと雲散霧消してしまうので、教員がリードして学習課題を設定する。その時、必要な知識・技能の教授を行ったり必要な情報を提示したりする。

B 課題解決の活動━仮説を設定し、その論証に必要な知識・情報・データ・言葉を収集し解析する。この活動が思考である。

C 結論獲得━思考することにより葛藤は解決できる。それにより、学習の喜びを実感できる。

D 発表━発表する意義としては、「自分として結論を獲得した喜び」「自らの生き方を確認した充実感」「共に生きようという他者への呼びかけの喜び」等がある。

E 知的体系への位置付け━以上の学習の成果を教員が知的体系(ディシプリン)に位置付けて説明する。

F スキーマの再構成━スキーマつまりだれもが所有している独自の知識の構成体・枠組みが一段と豊かなものになる。

4)指導技術

 指導技術の向上は、教員の生涯にわたる研修課題である。指導技術には、長年の授業研究を通して追究してきた伝統的な技術がある。理解しやすい説明の仕方、板書の方法、発問の仕方、提示する教材の内容、個別指導の在り方、その他多様な側面がある。同時に、ICTの進歩による新しい指導技術も期待されている。この点、主幹教諭・主任・指導教諭等の指導・支援により、指導技術の向上を図る必要がある。

【学級経営の具体的な要点・配慮事項】

 新任教員にとって授業以上に難しいのが、学級経営かもしれない。児童生徒一人ひとりの個性・独自性の開発を重視しつつ、学級としての秩序の維持と温かな人間関係の形成が要請される。この点は、特に経験がものを言う分野でもあり、しかるべき指導・支援が不可欠である。

1)児童生徒一人ひとりについての理解

 学習は共同して展開されるものであるが、学習するのは各児童生徒であり、各自の独自性を相互に交流し合うことによって充実した学習活動が展開できる。各児童生徒の独自性の理解は教員にとって極めて重要な課題だが、この点、新任教員の苦手とするところでもある。これも、長年の経験がものを言う部分であるが、早くこの点の力を身に付けることが期待される。すべての児童生徒の言動に絶えず関心をもつこと、そして折に触れて語り合うことが必要であろう。授業中ももちろん重要だが、何気ない時間に児童生徒個人の真の姿が見えることもある。朝の校門のところでとか、休み時間中とか、放課後の清掃の時間とかが、なかなか重要である。

2)学級の児童生徒間の関係と学級の雰囲気

 雰囲気づくりは学級経営の重要な視点である。各自の独自性が尊重され、それでいて秩序正しく学級としてまとまっている。こういう人間性豊かな雰囲気を醸成することが重要になる。ときに、学級にいじめが存在する場合もあるが、これは、絶対に放置してはならない。この点についての教員のきめ細かな配慮が必要である。校長として、新任教員の学級経営の実態を把握し、具体的場面に即し指導・支援・激励をすることが必要である。

3)学級経営の基本方針・目標

 学級目標を掲げるのが一般的である。しかし、建前として定めているだけで形式的になり、全児童生徒の内発的な意欲の開発に連動していない場合もある。この点を改善したい。どうするかは、いろいろ工夫が必要であろうが、作成の過程で児童生徒の自由な積極的な意見の発表を求め、これを教員の適切な指導のもと集約していくこと等が望まれるのではないか。

4)特色ある学級活動

 多様な活動が必要であろう。毎朝、一人ずつ短時間発表させるなどの方法をとっているところがある。ある学級での発表の事例として次のようなものがある。
 ・ 最近読んだ本で面白かったもの。その概要。
 ・ 金魚を飼っている。そのための工夫。
 ・ 田舎のお爺さんから聞いた昔話。
 ・ 毎日やっているパソコンでの工夫。
 ・ 私の将来の夢。そのための計画。
 ・ 私の好きな歌とその理由。

5)保護者との交流の在り方

 保護者との協力関係の形成が学級経営の一つの重要な課題になっている。保護者の要望に学校は敏感に応ずるべきだ、保護者は利害関係者として学校経営・学級経営・授業に参画する権利があるという見解が広がってきている。このような方向は、今後の学校経営の基本であろう。それでいて、一方、公教育としてのレベルの維持も要求される。この点も、新任教員の苦心するところである。保護者には、次のような活動を通して、学校の基本的な姿勢を理解してもらうことが必要であろう。

@ 学校の方針・学級経営の方針を的確に説明する。

A 児童生徒の学校での生活・学習の実態とそれへの教員の指導支援の実態について説明し理解と協力を求める。児童生徒の学習・進路・生活態度については、協力的な雰囲気の中で率直な意見交換をする。

B 保護者の学校への期待・要望には丁寧に耳を傾け、学校として説明すべきところは的確に説明する。

C 保護者からのいわゆるクレームについては、即座に回答せず主幹等への相談をするのが適切な場合が少なくない。主幹・主任は、必要に応じ副校長・校長に報告し、指示を求める。

【児童生徒の生活や心についての指導の在り方】

 児童生徒の生活や心が急激に変化している。その背景には、社会全体の価値観の変化、家庭の人間関係の変化、地域コミュニティーの解体による人間関係の希薄化、治安の悪化その他多様な変化があり、これへの対応は容易でない。しかし、児童生徒の生活や心の指導なしに教育は成立しない。ベテランと言えども毎日たいへんな努力をしているところであり、新任教員への指導・支援は特に重要である。

1)学校での生活の実態を踏まえての指導の充実

 新学習指導要領でも、教員と児童生徒の向き合う時間の確保を重視している。教員は、折りにふれ、児童生徒と良く話し合うことが基本的に重要である。定期的な話し合いの時間を、放課後などに年間計画として設定することが必要であろう。その際、教員の語りかけの内容が重要になる。事例に即し、学校全体としての絶えざる研修・研究が必要である。

2)家庭生活について

 児童生徒の生活スタイルには、誕生以来の家庭の生活実態が強く関連している。しかし、教員が家庭生活にどこまで立ち入るかべきかには微妙な問題もあり、新任教員としては、慎重に対処することが肝要であろう。校長として指導する必要がある。

3)心の問題

 教員にとって、児童生徒の心の問題は究極の問題である。学習も心の健康度が基盤になる。児童生徒の心にどう迫るかは、教員としての生涯のテーマである。まず、人間として誠実に温かく児童生徒に接することが肝要である。各児童生徒の抱えている課題の背景には、現代の人間の課題が、そして生育以来の個人的な事情がある。すべての児童生徒が可能性をもっていることを教員は信じて温かく、しかもきめ細かく接することが望まれる。

 反面、教員は時に注意したり叱ったりすることも必要である。この複雑な課題について、校長として折りにふれ新任教員を指導し支援していくことが必要である。

4)課題を抱える児童生徒への個別指導の在り方

 新任教員が悩むことにこの問題がある。どの児童生徒も何らかの課題を抱えているとも言えるが、その実態そしてその背景にあるものは多様である。どう認識しその児童生徒にどう対処すべきかは複雑である。

 何よりも、緊密な人間関係が教員と児童生徒の間に形成されなければならない。学校の毎日の生活の中でできるだけ多く、二人で接し、語り合う機会を設けることが必要である。実際には、なかなかその時間がとれない実態がある。だから、いじめなど教員が見逃すことにもなる。校長として、その時間を計画的に設定することが重要である。また、語り合う時の話題や語り合い方法などについての校内研修会を設定するなども校長に期待される。

【教員としての職務遂行上の課題】

1)担当分掌での勤務の在り方に

 校務分掌での活動も教員の経験としては極めて重要である。教科指導は容易でないが、ある意味では範囲が限定されている。したがって、教員としてどの点を勉強したら良いのかが割合はっきりしているとも言える。これに対し、分掌での活動では学校の教育活動を総合的に見ていくことが必要である。学年・教科を超え、学校生活での多様な現象すべてを対象にしなければならない。このような分掌での活動は新任教員の力量形成という意味において重要であり、適切な指導・支援が期待される。

2)主幹教諭・主任等幹部教員・担当指導教諭・同僚教員・学校職員との連携

 この点、校長が、主幹教諭、主任等幹部教員へ新採教員に対する指導・支援について指示することが有効であろう。近年同僚との関係がなかなか適切に形成できない若い教員が増えているという指摘もある。また、児童生徒の考えや生活スタイルの変化・保護者の学校へのかかわり方の大きな変化等もあり、学級経営・授業展開が上手くいかず、戸惑い、孤立化する事例も少なくない。そこで、校長・副校長としてさらに担当指導教諭として、しかるべき指導・支援が必要になる。タイミングを逃さず適切な対応することが必要である。

3)事務処理の進め方の基本的留意事項

 事務処理の分野も年々複雑化し量的にも増えている。多様な調査等もあり、文書作成が要求される場面も増えている。また、学級通信の発行などで保護者に適切な情報提供や協力依頼をすることも要求されている。これらについては、具体的な事例に即して、丁寧に指導する必要がある。特に、学級通信の内容などについては、学年主任の指導はもちろん校長として事前に確認し、適切な指導・指示をする必要がある。

4)個人的な研修の進め方へのアドバイス

 生涯学習の時代、すべての人が勤務しながら研修を積み重ねていくことが必要になってきている。特に、人間の育成という重要な職務を担当している教員には、不断の継続的な研修が必要になる。新任教員は疲れがちであり、帰宅後も授業の準備その他やるべき仕事が多い。また、教育委員会の行う新任教員への研修等公的な研修も多く、なかなか個人的な研修に時間を割くことは困難であろう。無理しない範囲での研修計画を立案し研修を行うようアドバイスをしたらどうか。校長としては、学校全体の研修計画を立案する中で、新任教員の研修の充実を図っていくことが必要であろう。

5)諸課題への対処の仕方

 学校教育にも多様な課題がある。地域との協力関係も緊密化している。保護者の要求も時に厳しくなっている。学力も大きな課題である。ICTの活用など学習方法も変化しつつある。何より、児童生徒の生活スタイルが大きく変わりつつある。このように課題が多くある状況で、新任教員の対応は難しい。校長や副校長等の管理職・ミドルリーダー教員・同僚教員・職員の支援が必要になる場合が多い。

 どうするかは状況により多様だが、温かな支援が期待される。保護者への応対など学年主任が一緒に行うなどのことも必要であろう。問題を抱える児童生徒への指導・支援には、学年全体の教員が多様な形で関わることが必要である。 今まで以上に真剣に論議する必要があると思うが、いかがであろうか。ご意見をいただければ幸いである。

以 上   

Back to Contents