提言109:大学入試改革 受験生の学力を適切に測れるか

 

 2017(平成29)年5月16日、文部科学省(以下「文科省」という)は、大学入試センター試験の後継として、2020(平成32)年度から導入する新テスト「大学入学共通テスト(仮称)」の実施方針案を公表した。

 

図表-1  現在のテストと新テストの比較

同日、大学入試センターは、国語と数学で導入される「記述式問題のモデル例」をHPで公表した。

 今回公表された「大学入学共通テスト」(仮称)の実施方針案や記述式問題のモデル例などについて、筆者の見解を述べてみたい。

 

1.大学入試改革の推移

 我が国では、1894(明治27)年に尋常中学校の入学を学力試験によると定めて以降、中等以上の学校の入学者は学力試験の成績によって選抜されてきた。大正期以降、進学志望者の急増に伴って、内申書、人物考査、口頭試問の導入などの改善策が試みられた。

(1)進学適性検査と能研テスト

 第2次世界大戦後は、大学教育を受けるにふさわしい能力・適性等を有する入学者を合理的、客観的な方法による選抜を目指して、1945(昭和20)年代の進学適性検査、1955(昭和30)年代後半から1965(昭和40)年代初頭にかけて能研テストの導入が試みられた。しかし、十分な活用が見られない等の事情により廃止された。

(2)共通1次試験

 能研テスト廃止後は、各大学が独自に入試を行ってきたこともあって、入試では高等学校教育の程度や範囲を超えたいわゆる難問・奇問の出題が続いた。そのため、高等学校教育への好ましくない影響が憂慮されるようになった。また1回限りの入試によって合否を決定する傾向にも課題が生じ始めた。

 1960(昭和35)年代には大学進学率が急上昇した。それとともに特定の大学・学部への志願者の集中傾向が高まり競争が一層激化した。その結果、学力中心の入試が強化され、高等学校の学習指導要領から逸脱した出題なども現れ、高等学校教育が知識中心の受験準備教育に陥る等の弊害が生じ始めた。

 この弊害の解消を目指して、入試方法改善の検討を進めてきた国立大学協会における長年の調査研究や、文部省(当時)の大学入学者選抜方法改善会議の報告(1971:昭和46年)に基づき、国公立大学の入学試験制度の改革が検討された。

 1977(昭和52)年度には共通1次試験のための大学入試センターが発足し、数回の試行テストを経て、1979(昭和54)年度入試から実施された。

 共通1次試験は、各大学が実施する試験に先立ち、全国において、同一期日に同一問題で行われる試験である。1月に5教科7科目で、マークシート方式で実施することになった。3月には大学ごとの2次試験が行われ、各大学は両方の結果に基づいて、入学者を選抜することになったのである。

 共通1次試験によって、高等学校の段階における一般的、基礎的な学習の達成程度を問う良好な出題が確保された。各大学はそれぞれの大学、学部などの特性に応じて行う第2次試験との適切な組合せにより、受験生の能力・適性を多面的・総合的に評価できるようになった。

 各大学が出題する1回限りの入試に偏った従来の方法を改め、きめ細かで丁寧な入試が実現したのである。

 第1回共通1次試験は、1979(昭和54)年1月13・14日の2日間で実施された。その後、1989(平成1)年1月14・15日までの11年間11回にわたり、すべての国公立大学および産業医科大学(注1)の入学志願者を対象として、全国の各会場で共通の試験問題により一斉に実施されてきた。また、共通1次試験を利用する各大学が個別に実施する第2次試験との組み合わせにより、入試の教科数が5教科から2教科程度に削減も可能となった。学力試験以外の面接、小論文の実施や推薦入学、帰国子女・社会人等の特別選抜の導入が増加するなど、選抜方法の多様化が図られた。

 しかし、共通1次試験が高等学校教育の実情等を考慮して、一律に5教科利用を原則としたことにより、

  ①  共通第1次試験の成績による大学の序列化

  ②  進路指導問題の顕在化

  ③  国公立大学のみの入試改革

  ④  各大学の第2次試験の改善

  など受験生にとって過重な負担となってきたため、多くの批判が顕在化してきた。

(3)大学入試センター試験

 1990(平成2)年度入学者選抜からは、受験生の高等学校段階における基礎的な学習達成の程度を判定することを目的とした「大学入試センター試験」が実施された。

 共通1次試験との違いは、少数の試験科目でも受験できるようになったことである。そのため、私立大学も参加するようになった。また、大学入試センター試験と志望する大学の2次試験を受験し、合否は合計得点によって決定されるようになった。大学の個別試験との適切な組み合わせによる受験生の能力・適性等の判定、高等学校教育に対応した良問の出題によって、難問・奇問の減少等多くの成果を上げてきた。

 大学入試センター試験だけで合否を判断する大学も増え、受験者は1990(平成2)年度の40万8千人余りから、2017(平成29)年1月には54万7千人余りにまで増加した。

 一方、マークシートだけでは思考力や判断力を測定するのは難しいといった声や、1点刻みで合否を判定することの弊害を指摘する声も上がるようになった。

 

2.大学入試センター試験の改革

 中央教育審議会(以下、「中教審」という)は、2012(平成24)年8月に文部科学大臣から、「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策について」の諮問を受けた。中教審は2年半近くの審議を経て2014(平成26)年12月22日、文部科学大臣に「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」の答申をした。

 この間、教育再生実行会議は、2013(平成25)年10月31日、「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」第4次提言をした。

 文科省の「高大接続システム改革会議」は、中教審の答申や教育再生実行会議(第4次提言)を踏まえ、14回の会議を経て、2016(平成28)年3月31日、「高大接続システム改革(最終報告)」をまとめ、今後の取り組むべき重点施策やスケジュールなど、制度設計を進めてきた。

(1)教育再生実行会議(第4次提言)

 教育再生実行会議(第4次提言)の前文には、「…知識偏重の1点刻みの大学入試や、本来の趣旨と異なり事実上学力不問の選抜になっている一部の推薦AO入試により、大学での学びに必要な教養知識等が身に付いているかどうかを確認する機能が十分発揮されておらず…」と明記されているように、大学入試センター試験の問題点は、「一発勝負であり1点刻みで合否を決定」することにあったと考えられる。また、試験内容については、「基礎的・共通的な教科・科目の学習達成度について、知識・技能だけてなく、その活用力、思考力・判断力・表現力等を含めた幅広い学力を把握・検証できるものとする」と明示された。このことは、知識・技能を前提に、思考力・判断力・表現力を問うテストへと質的転換を求めたもので非常に重要であると考える。

(2)中教審答申と文科省の「高大接続システム改革会議」

 2014(平成26)年12月22日、中教審は、「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」答申をした。答申の内容は、知識偏重型から思考力重視の入試への転換を図るとして、年複数回の入試実施、記述式の新テスト導入などである。この答申を踏まえて、文科省の「高大接続システム改革会議」は、1916(平成18)年3月31日、最終報告をまとめた。

 最終報告は、記述式を取り入れることを優先し、年複数回の入試実施を見送った。その理由は、入試が1回でも「知識に偏重した1点刻みの評価は改善される」としている。しかし、「一発勝負から脱却」を掲げた中教審答申からの後退は否めないと考える。

 「高大接続システム改革会議」は、高大接続改革実現のための具体策として、① 高等学校教育改革 ② 大学教育改革 ③ 大学入学者選抜改革、特に大学入学者選抜に係わる「学力評価テスト」の「記述式問題」などについて、制度設計を進めてきた。

(3)高大接続改革プラン

 文科省は、中教審答申(2014:平成26年12月22日)を踏まえ、今後取り組むべき重点施策とスケジュールなど、「高大接続システムプラン」について、2015(平成27)年1月16日に決定した。その主な内容は次の通りである。

 ① 高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜など三者一体改革

 ② 「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」など、真の学力の育成・評価

 ③ 「大学入試選抜」と「個別選抜」の改革

 ④ 個人の多様な能力を「公正」に評価

 ⑤ 改革の推進に当たって、関係者は見通しを持って対応

     などである。

(4)高大接続改革システム改革

 高大接続改革システム改革は、高等学校教育改革、大学教育改革、大学入学者選抜改革をシステムとして、一貫した理念の下に一体的に行う改革である。

 既に一部の高等学校や大学では、生徒や学生の能動的な学びによる「学力の3要素」の育成を重視した教育改革や大学入学者選抜の改革が自主的・自立的に進められつつある。高大接続改革システム改革の推進により、我が国の教育全体を未来に向けて転換していくことが最も重要である。この改革は、新たな時代を築き上げられるよう、社会に有意な人材を送り出すことを目指しているからである。

 

 3.大学入学共通テスト(仮称)の実施方針案の内容

 今回、文科省が進めている「大学入学共通テスト(仮称)」改革は、前述したように、高等学校教育、大学教育、そしてそれをつなぐ大学入学者選抜の三者一体改革である。

(1)高等学校教育改革

 高等学校の次期学習指導要領は、2017(平成29)年度中に告示される。次期学習指導要領に基づく高等学校教育は、学校教育法第30条第2項が定める学校教育において重視すべき学力の3要素を生徒一人一人の「資質・能力」として育成することを狙いとしている。

 一方、高大接続改革の一環として、生徒の基礎学力の把握と学習・指導方法の改善を目的とした「高等学校基礎学力テスト」(仮称)の構想が、文科省の有識者会議でまとまってきた。

 高等学校基礎学力テスト(仮称)は、2019(平成31)年から実験的にスタートし、2023(平成35)年からの本格実施を予定している。教科は国語・数学・英語の3教科に絞られる。国語は「国語総合」、数学は「数学Ⅰ」「数学Ⅰ・数学A」、英語は、「コミュニケーション英語Ⅰ」から出題される。実施時期や回数、対象学年は、各高等学校が判断する方向で検討されているが、導入当初は高等学校2、3年生が夏から秋にかけて受験することになる。過年度卒業生であっても受験ができる。高等学校基礎学力テストは教科書以外からも出題される。

 大学入学者選抜や就職への活用の在り方については、2019~2022(平成31~34)年度の「試行実施期」における実証的なデータや関係者の意見を踏まえながら検討される。

 科目構成や必修科目の見直しも行われている。例えば、地歴では現在の「世界史」必修を見直し、「歴史総合(仮称)」「地理総合(仮称)」を必修科目として設置することが検討されている。数理系科目では、数学と理科の知識や技能を総合的に活用して主体的に探究活動を行う科目「数理探究(仮称)」の設置が予定されている。

(2)大学教育改革

 高大接続システム改革会議の最終報告で、各大学は「卒業認定・学位授与の方針」、「教育課程編成・実施の方針」、「入学者受け入れの方針」など、3つの方針を策定し、大学教育を行うべきであると示した。したがって、各大学は建学の精神や特色等を踏まえた自主的・自立的な方針を策定することになる。

 ① 卒業認定・学位授与の方針

   学生が身に付けるべき資質・能力を明確化し、それらの資質・能力を身に付けた学生に卒業を認

  定し、学位を授与する。

 ② 教育課程編成・実施の方針

   卒業認定・学位授与の方針に基づいて、その方針を達成するために必要な教育内容等を具体的に

  記した体系的、組織的な教育活動を展開する教育課程を編成する。

 ③ 入学者受け入れの方針

   「卒業認定・学位授与の方針」と「教育課程編成・実施の方針」双方を達成し得る潜在力を持つ

  入学者を選抜するための具体的な入学者選抜方法を明示する。

(3)大学入学共通テスト(案)

従来の知識偏重型のテストから、知識を前提にそれを活用する思考力・判断力・表現力を問うテスト

へと変えるのが狙いである。大きなポイントは、従来のマークシート式の問題に加えて記述式の問題が導入されることである。記述式導入の対象教科は当面「国語」と「数学」とされている。設問の条件に沿って短文で解答する問題となる。一方、従来のマークシート形式の問題に関しても、複数の資料から様々な情報を組み合わせる必要のある問題や正解が1つとは限らない問題など、未知の状況にも対応できる思考力・判断力を重視した出題が検討されている。

 

図表-2   大学入学共通テスト出題教科・科目

① 出題教科・科目

 大学入学共通テスト(仮称)は、センター試験と同じ6教科30科目から出題される。科目は図表-2で示されている30科目である。高等学校の新しい学習指導要領が導入された後の2024(平成36)年度以降、科目の絞り込みが行われる。

② 記述式問題

 従来の知識偏重型のテストから、生きて働く知識・技能を前提に、未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力を問うテストへと変えるのが狙いである。そのため、従来のマークシート式の問題に加えて記述式の問題が導入される。

 記述式導入の対象教科は当面「国語」と「数学」であるが、2024(平成36)年度からは「地理史・公民」、「理科」にも導入が検討される。

 国語の記述式は、80~120字程度を3問程度、古文、漢文を除く「国語総合」から出題される。数学は「数学Ⅰ」「数学Ⅰ・数学A」から出題される。

 マークシートの問題は1点刻みであるが、記述式は段階別評価(3~5段階)となる。知識偏重の入試から脱却し、読解力や思考力、表現力を問う大学入試改革の趣旨に沿った問題になることを期待したい。

③ 英語試験

 英語の試験は大きく変わる。受験生は基本的に、高等学校3年の4~12月に2回まで受験ができる。実用英語技能検定(英検)やTOEFL(Test of English as a Foreign Language =「外国語としての英語のテスト」、トーフル)などを自ら選択して受験する。2回の試験の結果で良い方の成績を大学に送付する。各大学はその結果を入試の成績に用いる。「読む」「聞く」だけでなく、「話す」「書く」を加えた総合的な英語力を判定することになる。

 

4.大学入学共通テスト(仮称)の課題

 大学入試センターは、2020(平成32)年度から実施予定の「大学入学共通テスト(仮称)」に導入される国語と数学の「記述式問題のモデル問題例」をHPで公表(2017:平成29年5月16日)した。国語と数学の記述式問題は、大学入試センターが作り、採点は民間業者に委託する。成績は3~5段階で示し、採点結果をマークシート式問題の成績とともに大学に提供し、各大学で結果を活用することになる。

 英語は、英検やTOEFLなどの民間試験のうち、学習指導要領に対応し、実施場所の確保、採点の質といった条件を満たす試験を大学入試センターが認定し、高校3年の4~12月に2回まで受験できるようになる。

 記述式問題は大学入試センターが作成するが、記述式問題の採点は民間委託、英語の試験は民間検定試験の活用など、今後、検討し改善を図らなければならない課題が多くある。

(1)記述式問題の例

 大学入試センターがHPで公表した記述式問題の「モデル問題例」には、国語は「モデル問題例1」と「モデル問題例2」、数学は「モデル問題例3」と「モデル問題例4」など、国語と数学合わせて4問のモデル問題例が挙げられている。

 「国語のモデル問題例1」では、街並み保存を進める架空の市が作成した、市の方針を伝える広報資料から必要な情報を読み取って、考えをまとめ、論じる問題である。正しく解答するためには、住まいが保存地区にある親子の会話に基づいて、親子の議論の対立点は何か、登場人物がどのような考えを持っているかを根拠に記述しなければならない。

 「数学のモデル問題例3」では、公園に建てることになった銅像が最もよく見える位置の決定に余弦定理などを活用し考察するなど、解答に導く過程の数式の記述を求めている。

 「モデル問題例」を考察すると、知識偏重の入試から脱却し、読解力や思考力、表現力を問う大学入試改革の趣旨に沿った問題形式であると考えられる。

 しかし、朝日新聞(2017:平成29年5月17日付け)は、「今年(平成29年)2、3月、大学1年生約600人を対象に行ったモニター調査では、記述式問題の正答率の平均は国語で33.1%、数学で23.8%」と報じた。あまりにも低い正答率である。「モデル問題例」のレベルが高かったのか、大学1年生の「読解力・思考力・表現力」が低すぎたのかなどについて検証の必要がある。

 2017(平成29年)11月に予定されている5万人規模のプレテストでは、今年2、3月に行われたモニター調査を踏まえ、条件設定や採点基準、採点体制、採点期間などにつてもさらに検証していく必要がある。また、問題の難易度や試験時間のバランスなども検証していかなければならない。

(2)民間委託の採点に問題はないか

 新しい大学入試の制度設計を進めている文科省の専門家会議は、(2016:平成28年)1月29日大学入学希望者学力評価テスト(仮称)で採用する記述式問題について、採点に必要な期間の試算を示した。

 試算の内容は、「解答欄に記述させる文字数が40〜80字程度なら3〜4日、200〜300字では約1週間かかり、計6問出題すると最長で約2か月必要」ということである。また、受験者53万人分の採点を1日800人で採点することを想定している。その場合、「200〜300字程度の長い記述と80字以内の短文を組み合わせて計6問出題すると、その採点に最長で60日、短文記述式3問だと最長25日かかる。」としている。

 採点に長期間要するとなれば、受験生の入試決定が遅れたり、受験生の精神的な負担が大きくなったりするなど、多くの問題が生じる可能性が高い。

 このような状況を回避するため、採点を民間事業者へ委託することに決定したと考えられるが、採点にかかる日数以外にも問題点はある。

 民間事業者への採点において、採点基準などにばらつきは生じないか。50万人以上が受験する巨大試験で、受験生の記述解答を公平に評価できるか、狙い通りに思考力や表現力が十分に問えるかなどである。受験生が不安を抱えたまま受験することがないよう、試験のモデルや採点基準を早急に示すことが必要である。

(3)英語の民間試験 公平性を保てるか

 文科省は、英語で民間の検定試験を活用することについて、「複数の民間の試験を認定して、どれを受けてもよい」としている。しかし、民間検定試験の目的は留学やビジネスなど様々で、それぞれレベルや対象が異なっている。また、次期学習指導要領との整合性についてはどのようにするのか、現在の時点(平成29年6月27日現在)では不明である。民間試験は、受験料や年間の実施回数、試験会場の数も様々である。

 大学入試センターは、受験生の経済的な負担や離島・僻地の状況などを考慮し、受験回数は高3の4~12月に2回までとした。しかし、受験した試験によって不公平が出ないように、テストの成績の調整をどのように行うか明らかになっていない。また、「話す」試験で公平に評価できるだけの試験官の確保も問題である。特に、共通試験で「話す」試験を行った場合、一度に膨大な数の受験生を採点する必要があり、試験官の確保は非常に難しいことが予想されるからである。これらの問題点について、文科省の専門家会議を始め、関係機関のしっかりした対応が必要である。

 

5.大学入試改革/課題は山積

 改革は理念先行で具体像がなかなか明確になっていない。「大学入学共通テスト(仮称)」は、50万人規模の試験である。それ故、周到な準備が必要である。大学入試センターが、これまで実施した第1回、第2回モニター調査実施結果と2017(平成29年)11月に予定されている5万人規模のプレテストなどで、改善点をしっかり見極めるとともに、教育現場の声に耳を傾け、受験生の身になって最終判断をすることが最も重要なことと考える。

 

注釈

注1  産業医科大学:福岡県北九州市に本部を置く日本の私立大学で、自治医科大学、防衛医科大学と同じように、卒業後一定期間の指定された勤務先で働く義務を負う。

 

参考・引用文献

 1  大学入学共通テスト(仮称)の実施計画案

 2  新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者

   選抜の一体的改革について(中教審答申)

 3 「旧制大学における入学者選抜制度」(文部省)

 4  共通第一次学力試験の導入(文部省)

 5  大学入試の改善について(文科省)

 6  教育再生実行会議(第4次提言)

 7 「高大接続改システム改革会議(最終報告)」(高大接続改システム改革会議)

 8  Kei-Net 大学入試情報サイト(河合塾)

 9 「大学入学共通テスト(仮称)」記述式問題のモデル例(大学入試センターHP)

 10 朝日新聞・読売新聞・毎日新聞・東京新聞・日本経済新聞

                                        2017.06.27

 図表-1は、現在の「大学入試センター試験」と新テスト「大学入学共通テスト(仮称)」を比較したものである。

 英語は2020(平成32)年度から民間検定試験に全面移行するA案と、2023(平成35)年度まではセンター作成の問題と併存させるB案の2案が示された。

 英語は、実用英語技能検定(英検)など民間の資格・検定試験(「読む・聞く・話す・書く」の4技能)が導入される。

 国語、数学には記述式問題が導入される。出題は現行と同じ6教科30科目としている。実施時期は1月中旬の2日間、最初に受験する生徒は現役であれば、2021(平成33)年1月となる。したがって、大学入試センター試験は2019年度(2020年1月)の実施を最後に廃止される。

 この方針案は、大学や高等学校関係者らの意見を聞いた上で、6月中にも正式決定される。

 大学入学共通テストスト(仮称)は、知識重視から、思考力、判断力、表現力重視に転換し、答えのない課題に取り組んで解決を図ることができる人材を育成するのが狙いである。

 この実施方針案は、大学入試センター試験が始まった1989(平成1)年度以降では約30年ぶりの大改革である。