提言41: 幼保一体化について今から考えよう  (2011/10/29 記)

  最近、乳幼児の教育・保育の場において、延長保育を実施している「幼稚園」、英会話教室、体操教室といった教育的機能を導入している「保育園」などがみられようになり、あるいは、幼稚園と保育所の機能を併せ持つ幼保一体の施設「認定こども園」の設立なども話題になっている。
 このように就学前の教育・保育の場における境界はなくなりつつあるが、幼稚園・保育園を一体の施設に統合するとなると、そこには多くの課題が存在している。幼稚園・保育所(園)の成立の歴史を踏まえ、これまでの就学前の教育・保育について考えてみた。

1. 幼稚園と保育所(園)の発足の経緯
 日本の近代的学校制度は1872(明治5)年に制定・公布された「学制」がその出発点となっている。その中に「幼稚小学」の名があり、1876(明治9)年には東京女子師範学校内に「附属幼稚園」が開設されるなど、次第に各地に幼稚園が開設されていった。そして、1899(明治32)年の「幼稚園保育及設備規定」、1909(明治42)年の「小学校施行規則」の一部改正などによって、一部の子女に限られていた幼稚園への入園が多くの人々にも門戸が開かれ、幼稚園の大衆化の時代となった。その時期から約100年経過した2009(平成21)年の「学校基本調査報告書」(文部科学省)によると、幼稚園は13,516ヶ所あり、「幼児を保育し、心身の発達を助長する」活動を行っている。
 一方、保育事業は1890(明治23)年に赤沢鐘美・ナカ夫妻が開設した家塾(新潟静修学校)の託児所が最初といわれている。第一次世界大戦(1914〜18)以後は、世界的に起った新教育運動(児童中心主義の教育)によって、児童が尊重されるようになり、工場で働く女性のための社会事業も盛んになってきた。1921(大正10)年には東京市が公立の託児所を大阪市、京都市に次いで開設している。1938(昭和13)年、厚生省が設置され、これ以降、託児所は厚生省の所管となった。 1947(昭和22)年12月、「児童福祉法」が公布された。それによって、託児所の名称は保育所に統一され、保育所は児童福祉施設の1つとして位置付けられた。
 2009(平成21)年の厚生労働省の大臣官房統計情報部の資料によると、保育所(園)は22,848ヶ所あり、「日々保護者の委託を受けて、保育に欠けるその乳児又は幼児」の保育を行っている。
 このように、幼稚園と保育所(園)とは、その目的を制度上で見るかぎり、機能が異なる施設ということができる。

2. 教育基本法、学校教育法の改正と幼児期の教育
 2006(平成18)年12月22日、改正教育基本法が公布、施行された。今回の改正が1947(昭和22)年3月31日に制定、施行された教育基本法の初めての改正である。これまでの教育基本法は条文が第10条までであったが、今回の改正で4章17条に条文が増え、新しく設けられた中の1つが第11条の「幼児期の教育」である。「幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものである」と述べている。この改正教育基本法の新しい教育理念を踏まえて、学校教育法の改正も行われ、第1条の学校種の順序も変更になった。これまでの第1条は、「学校とは、小学校・・・・幼稚園」と、幼稚園が最後であったが、このたびの改正で、「学校とは、幼稚園、小学校・・・・」と、幼稚園が最初に置かれた。
 このことは、生涯にわたる人格形成の基礎を培う最初の出会いの場としての幼稚園、そこでの教育の重要性が確認されたものであり、幼稚園の教育的機能が明確になったと受け止めることができる。

3. 幼稚園・保育園の機能の変化
 幼稚園は学校教育法に定められた学校である。しかし、(1) 幼稚園は保護者や地域住民等の相談に応じて、家庭及び地域における幼児期の教育の支援に努めるとの規定も設けられ、家庭や地域社会等の要望を取り入れた幼稚園教育を行うことが求められるようになった。(2) 4時間という短時間保育が特徴であった保育時間に、保育時間の延長につながると思われる「預かり保育」の規定が設けられた。このことは、幼稚園に保育所(園)的な要素が加わったということができる。また、2008(平成20)年3月、幼稚園の教育内容について定めている幼稚園教育要領が改訂された。改訂は、「遊びを通じての指導」という幼稚園教育の基本方針には変更はないが、小学校就学前の教育の重要性が明確に打ち出されたことである。
 2011(平成23)年8月19日に、茨城県つくば市で行われた「第63回日本連合教育会研究大会茨城大会」の第8分科会(幼児教育)での研究協議においても「幼小の遊びの連続性」「小学校教育への円滑な移行に配慮した保育のあり方」などの提案があり、参加者を含めて熱心な意見交換が行われたことは、このような流れを受けてのことであった。
 一方、保育所(園)では、養護及び教育が一体的に行われており、保育内容は保育所保育指針に定められている。2008(平成20)年3月に改定された保育所保育指針からは、「厚生労働大臣による告示」に変更されており、2009(平成21)年4月から保育所(園)に対する保育所保育指針に基づく指導監査が実施されることとなった。このことは、保育所(園)の社会的責務を明確にすることと保育士の業務を明確にすることで、就学前の保育を充実させるとのねらいを打ち出したということができる。

4. 幼・保の一元化から一体化へ
 幼児期の教育・保育については、前述のように、文部科学省と厚生労働省の2つの省がそれぞれ別々に所管している。幼稚園における教育内容は幼稚園教育要領が、保育所(園)における保育内容は保育所保育指針によって定められており、改訂等に際して互いに整合性を図るなどの配慮も行われてきた。
 しかし、社会的には、幼稚園入園希望者の減少、保育所(園)での待機児童の増加といった状況が生じてきた。このため、このような異なる歴史的経緯の中で設立・運営されてきた幼稚園、保育所(園)を一元化することで、少子化の進行、待機児童問題の解消を図り、教育水準の均等化とサービスの効率化を目指すという政策が検討されるようになった。
 1996(平成8)年12月20日、地方分権推進委員会は「地方の実情に応じた幼稚園・保育所(園)の施設の共有化」を求める勧告を行った。それ以降、幼稚園・保育所(園)の施設の共有化への意識が高まり、2004(平成16)年12月24日、中央教育審議会幼児教育部会と社会保障審議会児童部会の合同の検討会議は、「就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設について」の骨子をまとめた。
 2006(平成18)年6月15日、「就学前の子どもに関する教育・保育等の総合的な提供の推進に関する法律」が公布された。この幼保一元化の流れを受けて、同年10月から「認定子ども園」制度が進められた。「認定子ども園」は、保育に欠けない幼児を4時間程度教育する幼稚園的機能と、保育に欠ける乳幼児を長時間保育する保育所(園)的機能を一体化したものであった。
 このように、自民党政権下で進められてきた幼保一元化の構想に対して、民主党は2009(平成21)年に出したマニフェストの中で、政策目的として、「縦割り行政になっている子どもに関する施策を一本化し、質の高い保育の環境を整備する」ことを掲げた。そして、幼保一元化に対して幼保一体化を主張した。その後、民主党が政権を担当すると、参議院選のマニフェストでも幼保一体化の方針を表明した。しかし、マニフェストの実現はなかなか進んでいないという状況にある。
 その理由として次のようなことも挙げられる。
 Œ 設立思想の違い ━ 幼稚園は教育施設、保育所(園)は社会福祉施設。これまでそれぞれの歴史と伝統を積み上げてきた幼稚園、保育園を一体化することへのためらいがある。
  根拠法の違い ━ 幼稚園は学校教育法、保育所(園)は児童福祉法によって活動が行われている。
 Ž 設備の違い ━ 幼稚園は3歳〜就学前の幼児、保育所(園)は0歳〜就学前の乳幼児。幼稚園には0歳〜3歳の乳幼児に係る設備が無い。
  資格の違い ━ 幼稚園は幼稚園教諭免許状、保育所(園)は保育士資格、 限定された資格で幼・保間で相互乗り入れができない。
 「認定子ども園」は、幼稚園教員と保育士がともに働く保育の場である。制度の違いをどう克服していくかが課題である。
 2011(平成23)年9月19日の新聞各紙は、政府の「子ども・子育て新システム検討会議」作業部会の中間とりまとめについて報じた。日本経済新聞によると、民主党政権が公約した幼稚園と保育所(園)の一体化が後退する可能性が出てきたという。政府の検討会議は、「こども園」を2013(平成25)年度に創設、2023(平成35)年度には幼稚園・保育所(園)を廃止して、すべて「こども園」に切り替える方針であった。これに対して、作業部会はこの制度改革に強く反発する全日本私立幼稚園連合会や全国国公立幼稚園園長会などからの批判が相次いだことから、「こども園」に統合する当初案に加え、現行制度の大部分を残した案を盛り込む案を残すことになったという。

5. これからの保育者に求められるもの
 「教育は人なり」といわれている。保育の制度がどのように変わっても、日々乳幼児に接し教育・保育に当たるのは保育者である。これからの保育者としてのあり方について以下のことを提言したい。
(5-1) 幼・保に対するニーズの多様化に応えられる保育者になろう。
  幼稚園・保育園は幼児にとって初めての集団生活の場である。保護者との良好な関係の構築、幼児への多様な経験を得る場にしよう。
(5-2) 幼児理解・そして総合的に指導することのできる保育者になろう。
  生活の中で幼児が示す行動様式を理解し、総合的に指導する力を身に付けるために、保育者自身が多様な経験を積もう。
(5-3) 保育を構想し、実践することのできる保育者になろう。
  園での生活の中には、生活体験、自然体験、あるいは異年齢交流、幼保の交流保育などの活動がある。保育者はこれらの保育を構想するために、自らが豊かな体験を積極的に積もう。
(5-4) 保育者として得意分野の育成に努めるとともに、保育者同士との協働に努めること。
 保育者は具体的に保育を想定し、総合的に指導しなければならない。一人ひとりの幼児の興味を引き出し、充実感を味あわせるためには他の保育者との協働が欠かせない。日頃の人間関係の醸成に努めよう。
(5-5) 小学校との連携、他の保育施設との連携ができる保育者になろう。
  幼児期から児童期への移行を円滑にして、小学校生活を充実したものにするために、交流への企画、実行を身に付けた保育者を目指そう。 

以 上   

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