提言42: 自校の教育課程に「持続可能な開発のための教育」を

デザインしよう  (2011/11/28 記)  

 2011年8月18〜19日、日本連合教育会研究大会茨城大会が開催された。大会主題は、「国際社会に生きる心豊かで創造的な日本人の育成」である。この大会主題を受けて、第6分科会[環境教育]では、研究協議題を「自ら考え、身近なことから行動する環境教育」と掲げ、研究発表・研究協議が行われた。
 研究協議の視点は、次の2つであった。
 ● 自分にできることから行動する社会(低炭素社会・循環型社会・自然共生社会)を目指す環境教育の推進
 ● 自分の身の回りや暮らしの環境に配慮したライフスタイルの在り方
 この研究視点は「持続可能な社会の構築」を、どのように創造するかにかかわる極めて重要な課題であったと考える。
 また、東京都教育会ホームページの「提言38: 【緊急提言5】東日本大震災復興と学校の役割を考えよう)」には、東日本大震災の復興は、持続可能な社会の構築を目指すこと、そして学校は、「持続可能な開発のための教育」の推進を図ることが必要であると記述されている。
 このような状況において、「持続可能な社会とはどのような社会なのか」「持続可能な開発のための教育とは何か」を、明らかにし自校の教育課程にどのようにデザインしたらよいかについて提言をしたい。

1.今なぜ「持続可能な社会」なのか
 21世紀に入り、環境・経済・社会のすべての分野で深刻かつ複雑な問題が発生し、その解決策、社会の在り方が問われている。
 環境の分野では、砂漠化、生物多様性の危機、地球温暖化等、地球環境にかかわる問題がある。特に、2007年に公表された「気候変動に関する政府間パネル」の『第4次評価報告書(注1)』では、次のことが指摘されている。
 Œ 人間による化石燃料の使用が地球温暖化の主因と考えられ、自然要因だけでは説明がつかないことの指摘。 
  気温や水温の変化や水資源、生態系などへの影響のほか、人間の社会に及ぼす被害の予測結果についての評価。 
 Ž 気候変動の緩和策の効果、経済的実現性と温室効果ガスの濃度別に必要な緩和策の規模や被害の分類等の評価。
 地球温暖化による衝撃的な内容が明らかにされるとともに、環境領域における持続可能性が問われている。
 経済の分野では2006〜2008年にかけて原油・食料価格の暴騰、エネルギーや食料危機が深刻化するなか、2008年9月、アメリカのサブプライムローンに端を発した金融・経済危機とその影響が世界に及び世界同時不況をもたらした。このように、経済の持続可能な在り方も問われている。
 社会分野では、1990年代以降とくにグローバリゼーションの進展に伴い、世代間・世代内の経済格差をはじめ、様々な領域において格差が進行しいる。そのなかで途上国の問題をはじめ、いかにして社会の持続可能性を構築するかが課題となっている。
 東日本大震災に直面した日本は、大震災からの復興に当たって、環境・経済・社会のすべての分野で深刻かつ複雑な問題が発生し、その解決策、社会の在り方が問われている。

2.「持続可能な社会」とは
 1987年に「環境と開発に関する世界委員会のブルントラント委員会(注2)」が発表した報告書『我ら共有の未来』は、今後の我々の目指すべき社会の在り方は「持続可能な開発」であると提唱し、その内容を「将来の世代の欲求を充たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」と定義した。
 その後、持続可能な開発の内容については、国際的な議論等の中で深められているが、その理念や考え方として、以下の4つが共通理解されている。
 Œ 将来世代に配慮した長期的な視点をもつ(環境のもたらす恵みの継承)
  地球の営みときずなを深める社会・文化を目指す(環境を維持し、環境との共存共栄)
 Ž 持続可能性を高める新しい発展の道を探る(人間としての基礎的なニーズの充足、浪費の排除)
  参加・協力、役割分担を図る(多様な立場の人々の連携)
 日本では、東日本大震災からの復興に当たって、「復興まちづくり」「環境問題」「放射能汚染」等をめぐる議論は大きな高まりを見せている。しかしながら、より大きな意味で「持続可能な発展」、あるいは「日本における持続可能な社会とは、どんな社会なのか」というビジョンについては、未だに戦略が示されていない。特に、気候変動(地球温暖化防止)対応とエネルギーの将来戦略が欠如している。
 このような内外の状況下において、東京都教育会は、「持続可能な社会のビジョン」を、次のように捉えることにした。
 Œ 低炭素社会の形成(地球温暖化防止、自然エネルギー、化学物質対策)
  循環型社会の形成(資源の効率的な活用、自然の循環システム、廃棄物・リサイクル対策)
 Ž 自然共生社会の形成(生物多様性の確保、自然再生事業)
  平和な世界の実現(国連、貧困・人口問題の解決 )

3.国連持続可能な開発のための教育の10年 〜 2014年まであと3年 〜
 国連は、2002年12月の国連総会において、我が国の提唱に基づき、2005年から2014年までの10年間を「国連持続可能な開発のための教育の10年(ESD:Education for Sustainable Development)」とすることを決議した。そして、ユネスコが中心となって、各国の指針となる国際実施計画を策定した。
 国際実施計画「ESDの10年」の全体を貫く目標を、「持続可能な発展の原則、価値観、実践を教育と学習のあらゆる側面に組み込むこと」としている。したがって、ESDは、「持続可能な社会の担い手を育む教育」と言うことができる。
 私たちは世界の人々や将来世代、環境とのかかわりの中で生きていることを認識し、質の高い教育の恩恵を享受し、また、持続可能な将来と社会の変革のために求められる価値観、行動、及びライフスタイル等を学び、主体的に持続可能な社会づくりに参加することが求められている。

4.「持続可能な開発のための教育」のデザイン
 「持続可能な開発のための教育」は、持続可能な社会の担い手を育む教育、即ち「未来をつくる教育」の創造である。したがって、社会の課題と身近な暮らしを結びつけ、新たな価値観や行動を生み出すことを目指すことが重要である。例えば、持続可能な社会の課題を理解し、その課題と向き合う。そして、その課題を解決するために何ができるかを考え、実際に行動するというようなことである。
 このような経験を通じて、社会の一員としての認識や行動力が育まれていくと考える。また、豊かな自然と命のつながりを感じたり、地域に根ざした伝統文化や人々と触れながら、人と自然、人と人との共存や多様な生き方を学ぶことができる。

 (4-1)ESD基本的なビジョン
  ESDの基本的なビジョンとして、次の5つの目標が掲げられている。
 Œ 持続可能な開発を共通的に追究するに当たって、教育と学習が中心的な役割を果たすこと。
  ESDの関係者の間で、リンク、ネットワーク、情報交換、交流を促進すること。
 Ž すべての形態の学習や人々の認識を通じて、持続可能な開発についてのビジョンを洗練・推進し、変化させるための場所と機会を提供すること。
  持続可能な開発のための教育において、教育と学習の質の向上に努めること。
  ESDにおける能力を強化するため、すべてのレベルにおいて戦略を開発すること。
 学校教育においては、上記目標の中で、特に「」を目指すことが重要であると考える。

 (4-2)学校における取組 〜「クロス・カリキュラム」のデザイン 〜
  2008年3月に公示された新しい学習指導要領等には、持続可能な社会の構築の観点が盛り込まれている。教育基本法とこの新しい学習指導要領等に基づいた教育をESDの考え方に沿って実施することが重要である。特に総合的な学習の時間では、各教科等で学んだことを活かして、自ら調べたり、考えをまとめ発表したりする等、ESDに関する学習を一層深めていかなければならない。そのためには、クロス・カリキュラムをデザインすることが必要である。
 クロス・カリキュラムの由来は、1990年のイギリスの教育課程である。クロス・カリキュラムとは、現在の教育課程が教科・道徳・外国語活動・総合的な学習の時間・特別活動で編成されているのに対して、その領域を横断的にして学習活動を編成しようとするものである。
 したがって、教科間クロス、教科と道徳のクロス、道徳と特別活動のクロスというように、横のつながりや関連を重視することに特徴がある。
 新学習指導要領には、クロス・カリキュラムの記述はないが、各教科の関連を図り、系統的、発展的な指導ができるように求めている。

 (4-3)クロス・カリキュラムをデザインするには 
 例えば、環境分野の「地球温暖化防止」「自然エネルギー」「廃棄物・リサイクル」等について学習する場合、クロス・カリキュラムが有効である。理科や社会等の教科のほかに、道徳や特別活動等、学習内容を断片的に指導するよりも、まとまった単元としてデザインすることが可能であり、効果的な指導ができるからである。その際、ESDの基盤となっている持続可能な将来と社会の変革のために求められる価値観、行動、及びライフスタイル等の要素を明確にしておかなければならない。 
 学校では、「自然の循環システム、廃棄物・リサイクル」、「資源の効率的な活用、自然の循環システム」、「国連、貧困・人口問題の解決」等について、クロス・カリキュラムをデザインする場合、「認識」の形成として横断的に導入する教科は何か。「行動」の形成として特別活動は必要か。「価値判断」の場を想定しての道徳は必要か等、学習内容や活動によって何をどのようにデザインするかを、学校の実態に基づいて進めることが重要である。

5.環境保全活動・環境教育推進法の一部改正
 2011年6月15日に「環境保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律の一部(2003年法律第130号)を改正する法律」が公布された。(2012年10月1日に完全施行)
 法律名は、「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」から「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律」に改正された。 
 今回の改正のポイントは、行政・企業・民間団体等の協働取組、環境教育等支援法人の指定や体験の機会の場を認定する制度の創設、学校教育における発達段階に応じた体系的な環境教育のための支援等が重視されている。
 旧法は環境教育を、環境の保全に関する教育・学習と、極めて限定的に定義していたが、改正された法では「環境と社会、経済及び文化とのつながりその他環境の保全」と守備範囲が広げられた。人権や平和、貧困など具体的な記述はないが、格段に持続可能な開発のための教育(ESD)に近づいたと考えられる。
 また、これからの環境教育は、環境、社会、経済、文化を一体のものとしてとらえ、総合的な課題解決の道筋を考える「未来を創る力」を備えた人づくりに貢献できるものでなければならないというメッセージと読み取ることができる。
 「2003年に旧法が成立してから8年、地球規模においても、国全体を見ても、さらには地域でも持続不可能性問題が解決しないばかりか、一層深刻化している現状を踏まえた改正である。」と環境省の資料に記述されている。
 改正された法律に基づいて、自校の教育課程をどのようにデザインするかを早急に検討しなければならない。その際、次の2つについて重視することが必要である。
 Œ 環境を軸とした成長を進める上で、環境保全活動や行政・企業・民間団体等の協働の重要性を認識する。
  国連「持続可能な開発のための教育の10年」の動きや、学校における環境教育の関心の高まりなどを踏まえ、自然との共生の哲学を活かし、人間性豊かな人づくりにつながる環境教育をなお一層充実させることが必要である。特に、東日本大震災の復興を目指し、ESDの推進を図っていかなければならない。

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 ※ 注1:地球温暖化に関する報告書(気候変動に関する政府間パネル
      (Intergovernmental Panel on Climate Change)
 ※ 注2:1984年国連に設置された「環境と開発に関する世界委員会」
以 上   

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