提言44: 保護者と語り合い、相互の信頼関係を構築しよう   (2011/12/19 記)  

1. 学校教育の現状と課題
 今、学校教育は多様な課題を抱えている。そのひとつに、保護者との関係についての悩みを聞くことも少なくない。従来、日本の学校教育では、教師と保護者の間で、教育の進め方についてごく自然に共通理解が形成されていた。
 ところが、近年、保護者を利害関係者と位置付けたりして、自分の子どもの利益優先で要求することを是とする風潮が一部に広がっていった。そのため、保護者と教師の間に考えの違いが生ずるというケースも出てきた。中には、モンスターのように、強く要求する事例もあるという。モンスター・ペアレントという言葉は、日本での造語のようで、アメリカにはヘリコプター・ペアレントという言葉がある。可愛い自分の子が学校に行っても楽しくやっているかどうかが気になり、親はヘリコプターで見張っていたい。この親の気持ちは理解できる。こういう優しい親の気持ちは日本文化の特色でもあったのに、どうして大きく変化することになったのであろうか。
 もちろん、親が自分の子どものことを優先して考えるのは当然のことであるが、これを要求という関係ではなく、協力して教育を進めるというという発想で考えるのが学校教育では特に重要ではないか。では、どうすれば良いだろうか。
 要は、学校が誠意をもって保護者に語ることが大切なのではないか。だれがどう語るかはいろいろあるが、一応、校長・学年主任・学級担任の役割について考えることとする。

2. 校長の役割
 各学校での創意工夫を凝らした教育活動の推進が期待されている現在、校長の保護者への多様な機会での語りかけが重要になる。

(2-1)全校集会での語りかけ
 校長が保護者に直接語りかける機会としては、全体保護者会・学年保護者会・PTA総会・学校行事としては運動会・音楽会などが考えられるが、そこで、何をどう語るかが、学校と保護者との好ましい関係を築く上で重要な意味をもつ。
  次の点に配慮して語ったらどうであろうか。
 Œ 学校の教育方針を語る。教育目標などを定めている場合は、その趣旨を、単に抽象的にあるいはスローガンのように語るのではなく、なるべく具体的に事例に触れながら、教育者としての思いを込めて語る。 
  学習指導についても、今、各学校の創意工夫が求められており、その特色について良く説明し理解を得て、協力してもらうことが必要である。この点については、主幹・主任・学級担任等から折りに触れ具体的に説明することが必要であるが、校長として基本的な考えを明確に説明する必要がある。
 Ž その基本方針に即した授業を公開し、その後に意見交換をするなどのことも計画する必要があろう。その方針を語る。
  児童生徒の生活・心の実態について事例を根拠に語る。その際、児童生徒の良さ、可能性についてできるだけ多く語る。
  運動会・音楽会などの学校行事は、多彩な内容をもつ総合的、体験的な活動であり、学校生活をより豊かにより充実したものにするなど、人間形成にとって重要な教育活動である。その趣旨を踏まえて、校長として、当日の具体的活動について語る中で、学校としての教育方針の基本、自校の学校文化の意義などについて印象深く語る。
  現代社会の人間の心・生活の実態にも言及し、家庭におけるしつけについて具体的に語る。特に、どういう時にどう励ましどう叱りどう注意するかについて具体的に語る。
  校長の役割としては、学校全体の指導体制を整備し、有意義な教育活動を推進することが重要で、その基本方針・方策について語る。

(2-2)文書等による教育方針の提示
 学校として保護者に学校便り・通信あるいはホームページ等で、学校の教育方針・児童生徒の学校生活の実態・家庭生活の在り方についての期待など多様な情報を提供することが求められる。その編集は学校が組織として行うのであるが、内容については校長・副校長が的確に指示することが必要である。
 文書の作成には、慎重さが必要であるが、一方では、できるだけ学校の実態を、保護者だけでなく地域住民も含めて広く説明することも求められる。

(2-3)地域住民との話し合い
 地域の人材を含む多様な教育資源の活用など、教育活動の計画化・実践に当たり地域の協力が重要である。特に、児童生徒の生活についての指導となると、地域の積極的関与が重要になる。そのための話し合いの機会を設定することも求められるであろう。

3. 学年主任の役割
 学年主任が学年独自の課題・指導方針等について語ることが、保護者に安心感・期待感を与えるという意味からも重要である。

(3-1)学年独自の説明
 保護者会としては、単学級の場合は別として、学年保護者会を開いて、その後学級ごとの保護者会を開く、さらに時間的余裕があれば個別に話し合いをするというのが一般的である。
 学年保護者会では、まず、学年主任の保護者への説明が重要になる。そこで求められるのは学年の独自性に配慮した説明である。
 学習・生活その他指導の在り方の基本は学校全体で十分研究した結果、校長の意思によって決定されるものである。同時に、日常の指導については、学年として関係教職員が意見交換をし、副校長・主幹からの指導なども受けながら決定し実践をしていくのが一般的である。その結果、学年独自の雰囲気が形成をされ、それが学校教育全体の活性化にも連なる場合もある。学年としての教育活動についての基本的考え・重点等を学年主任として説明することが必要になる。保護者も一緒になって活性化していこうという雰囲気を醸成することが重要である。

(3-2)説明の具体例
 発達段階によって説明の内容が変わってくるが、例示してみる。
 Œ 小学校入学直後
 例えば、小学校入学直後の学年保護者会では、保護者は、希望と期待に胸を膨らませている一方、小1問題(プロブレム)などとも言われているように、いろいろ心配もあるかも知れない。そこで、学校生活・学校での学習については「安心して任せてください」ということをしっかりと話すことが重要である。そのため、学年としてどのような点に配慮するか、例えば一人一人の児童とどう話し合うかについてそのやり方など具体的に話をして欲しい。
  中学校入学直後
 中学1年生は、小学校と中学校の雰囲気の違いに、また、教科担任制の導入など教育の仕方の違いに戸惑うかも知れない。加えて、発達面でもひとつの大きな転換期でもあり、保護者としての期待と喜びを感じつつ、一方で指導の在り方に戸惑っている事例も少なくない。今までの小学校時代の生活・学習を土台に、発達に応じてきめ細かな指導をすることを説明し、同時に、何かあったら教師に遠慮なく相談をして欲しいと語りかけてもらいたい。
 Ž 進路選択
 小学校6年生・中学校3年生になると、進路選択が重要な課題になる。これは、学級担任との語り合いでも重要な課題である。学年主任としては、発達段階・個人の特性に応じ総論的に進路決定での配慮事項・学校の相談体制などについて語り、学級担任と個別によく相談するように求めることが有意義である。

4. 学級担任の役割
 学級担任の語りが、保護者との語り合いとしては最も具体的で重要になる。ただ、担任教師の経験には差もあり、学年全体であるいは学校全体で支援することも必要である。

(4-1)学級全体への説明
 まず、担任が学級としての経営方針を全体に説明することが必要になる。新任あるいは経験の浅い教師も視野に入れ、留意事項を提示してみる。
 Œ 語りかける基本姿勢
 児童生徒の良い点を十分把握し、さらなる発展・向上を期待していることを基本的姿勢にする。改善を求める場合でも、期待を込めて語る姿勢を大事にする。
  学習全般について
 学習の在り方については、新学習指導要領の理念を踏まえるなどして、分かりやすく話すこと。特に、学校としての特色ある学習活動については、理解し共感を得られるよう説明に工夫をすることが求められる。
 Ž 生活上の課題について
 いじめ・学校嫌いなども含む生活上の課題については、次に指摘する個人情報の扱いについて十分配慮しつつ、できるだけ実態を伝え、それに対する学校としての指導方針等を説明して理解と協力を要請することが必要であろう。いじめなどについては、教師の把握してない情報もあるかも知れず率直な意見交換が求められる。

(4-2)個別の語り合い
 Œ 家庭生活について
 家庭生活について語り合う場合は、当該児童生徒の生活に関する部分以外は言及しないこと、また、当該児童生徒に関する部分でも家庭生活についての突っ込んだ発言は控え、一般論として語ることを原則にする。この点、新任教師などは事前に主幹・主任などから指導を受けることなども望まれる。
  学校外での学習について
 学校外での学習については、塾などに行く児童生徒も増えており、学校での学習と若干異なる傾向がある。しかし、学校は児童生徒の学習に全面的な責任を背負っているのであり、家庭学習の進め方についても積極的に関与すべきである。保護者とは、具体的な学習の在り方に触れ一緒に考えることが必要である。
 Ž 進路について
 小・中・高校によって、また、学年によって違いはあるが、進路選択は、児童生徒にとっても保護者にとっても重要な課題である。この点について、教師として確実な情報を所有し的確な指導・支援ができることが必要である。特に、上級学校については、一般には偏差値とか評判とかで選択する傾向があるが、各学校の教育方針とか校風とかに着目し、児童生徒の希望・特性との適合をもとに示唆することが必要である。
  保護者の学校・学級への期待・要望 
 多様な期待・要望があろう。信頼関係を基盤に自由な意見交換をしていくことが肝要である。保護者の発言の内容については、必要に応じ主任・主幹にさらには副校長・校長にも報告をして指導してもらうことが必要な場合もある。
  教師と保護者の信頼関係
 その基本は、掛け替えのない児童生徒の成長を目指し最善の在り方を相談し協力関係を構築することである。保護者の教師への信頼感を形成するためには、教師の専門家としての見識と力量・人間的誠実さ・確実な情報理論に基づく的確な助言等が求められる。

(4-3)留意事項
 Œ 学校便り・通信・広報・メール等
 学校として、学年として、また、学級として、いくつかの発信手段がある。口頭で語る場合ももちろん言葉・内容には慎重であらねばならないが、文書として発信する場合はより慎重でなければならないであろう。学級として発信する場合は、事前に学年として十分検討すると同時に、主任・主幹の指導を受けて、副校長・校長に容認してもらうことが必要になる。
  個人情報の扱い
 学級での活動の実態を語ることは必要だが、個人名を出すことには慎重でなければならない。
今後も、学校と保護者相互の、よりよい信頼関係の構築に期待したい。

以 上   

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