提言57: 教職員のメンタルヘルスの維持に校長として配慮しよう

(2013/3/28 記)  
 公立の小中高校の管理職が『自分は管理職に向いていない』などと一般教員への降格を自ら申し出る、いわゆる希望降任者が2011年度、216人と過去2番目に多かったことが昨年12月24日、文科省の調査で分かった。
 また、中間管理職である[主幹教諭]が半分以上を占めている。管理職全体では前年度比5人増で、統計を取り始めて以降、2009年度の223人に次いで2番目となる。校長からの降任は7人、副校長・教頭は86人で前年度比より減ったが、主幹教諭は116人で前年度比より13人増えていた。
 一方、病気休職した教員は8,544人(前年度比116人減)で、このうち、[うつ病]などの心の病気は5,274人(同133人減)。わいせつ行為などで懲戒処分を受けたのは151人(同1人減)だった。
 このように教職員のメンタルヘルスが、今、教育現場で重い課題になっている。
 文部科学省も、教職員のメンタルヘルス対策の必要性を重視して、教職員のメンタルヘルス対策検討会議の中間まとめ[教職員のメンタルヘルス対策]について平成24年10月3日、公表している。教職員、特に校長・副校長はこれを熟読し、学校経営の参考にして欲しい。 
 この中間まとめでは、[精神疾患により休職している教員の現状]について、『平成22年度において5,407人で若干減少したものの、依然として高い水準にある』と指摘している。 
 さらに、課題として次の3点を指摘している。
 Œ 学校教育は、教職員と児童生徒との人格的な触れ合いを通じて行なわれるものであり、教職員が心身ともに健康を維持して教育に携わることができるよう、メンタルへルス対策の充実・推進を図ることが必要である。
  教員の年令構成が高齢化しており、メンタルヘルス不調者の割合が高い年代の教職員が増加することになることや、新規採用教職員が増加傾向にあり、採用間もない教職員に対する支援がますます重要になってくることなどから、学校における予防的な取組をはじめとしたメンタルヘルス対策の充実は喫緊の課題となっている
 Ž メンタルヘルス不調による休職から復帰した教職員が再度休職となる場合もあり、再度の休職とならないような効果的な復職支援策を講じることが必要である。
 その背景であるが、「メンタルルヘルス不調の背景等。職場としての学校の特徴・雰囲気」より、一部抜粋してみる。 
 Œ 人間関係においては、同僚や上司・部下だけでなく、児童生徒と保護者も関係し、お互いに影響し合っているため、一部の人間関係が難しくなると、全部の人間関係が悪くなっていくことがある。
  自分のクラスのことは自分で対応してほしいとの思いから、周りの教員も介入を遠慮してしまう風土がある。校長が早めにフランクに介入していくような学校は事例化が少ない。 
 Ž 上司や同僚が、仕事の悩みについて相談を受けた場合、相談者本人のメンタルヘルスを考えるよりも、仕事の仕方等についてのアドバイスが中心になる傾向がある。
 この問題は、マスコミでも取り上げて報道している。例えば、読売新聞は、平成24年5月14日の社説「業務負担の再点検で予防図れ」で、「心の病を抱える教師が増加傾向にある。」と指摘し、「仕事の重圧が精神疾患につながっていないか、学校組織の中で仕事の分担を点検し、改善を図っていくことが肝要である。」「カウンセラーの配置など、国の継続的な支援が求められる。」などと述べている。
 また、東京都教職員互助会三楽病院精神神経科部長・真金薫子氏は、「同僚間で支え合える職場づくりを」という論文において、「教職における精神疾患とストレスについて」論述している。その中で、調査結果をもとに次のように述べている。
 「以上まとめると、教員では『うつ』が多いが、その多くは職場内ストレスによる『適応障害』であり、人間関係のストレス、ことに生徒指導の悩みが多く、教壇に立つことが困難になりやすいこと、保護者対応で問題が生じると学校に来られない事態に陥りやすいこと、などがいえる。」(「月刊高校教育。学事出版。平成23年11月。23頁)
 確かに深刻な問題であり、総合的な対策が期待される。どうすべきか。読売新聞も指摘しているように、カウンセラーの配置などしかるべき措置が教育行政に期待されるが、本提言では、校長・副校長の指導のもと、相互に支援し合って教育活動を展開することの重要性に着目してみた。
 教職員のメンタルヘルス維持のためには、管理職の役割が非常に重要であると考える。そこで、校長として、学校経営においてどのような配慮・工夫が望まれるかを提示してみることする。

1. 個々の教員への指導・話し合いをする
 これがまず非常に重要になるのではないかと考える。特に、最近増えつつある新任教職員との個別の話し合いが必要ではないであろうか。いずれにしろ、校長はすべての教職員と定期的に個別に話し合い、しかるべき指導・助言をすることが必要になる。校長室で、あまり型にはまらない形で、個々の教員の直面する課題について説明を聞いて、校長の長年の経験と自身の研修・研究を踏まえて、温かで適切な指導・助言をすることが望ましい。

2. 授業観察をし、指導・助言する
 教師の職務の第一に位置付くのは、授業であり、教師の悩みも授業に関するものがかなり多い。人事考課制度の導入で、授業観察を校長・副校長が行なうようになってきている、当然のことである。その成果を、当該教師の指導力の向上はもちろん、学校としての全体的な教育力の向上に連動させることが要求されている。
 当該教師への指導・助言としては、授業の是非を評価するのではなく、具体的な指導場面に即し具体的な指導の在り方などを提示して、激励し助言するのが適切であろう。

3. 学級の荒れ、いわゆる[学級崩壊]について指導・支援する
 学級崩壊の傾向がごく一部ではあるが現実にある。授業中、勝手に教室から出ていく児童生徒を教師が抑制できないという。このような現実を見逃しては、教育の崩壊につながる。もちろん、教師が暴力を揮うのは絶対あってはならない。しかし、打つ手は無限にあるはずだ。校長として有効、適切な指導をする必要がある。そこで、学級活動の実態を校長・副校長が観察することが何より必要であろう。その観察をもとに、率直で現実的、具体的なアドバイスをすることが欠かせない。 

4. 研修に関するアドバイスをする
 生涯学習の時代だが、教師こそ生涯学習の充実が自己の職務の充実に直結する職業である。各自、専門分野をもって少しずつでも良いから毎日学ぶように教師には進めたい。週休2日制になり、各自の自由に使いやすい時間が増えているという実態もある。この時間を活用するなどして、直面する課題への対応を中心に研修することが、教師としてのひとつの張り合いになるであろう。さらに、校長として、各教師の課題意識を踏まえ学校としての研修・研究課題を設定し、教員以外の職員も含め、合同で研修を深めることも期待される。

5. 教師としての生き方について指導・支援する
 希望を持って教師になった若い教師が一部ではあるが、1〜2カ月を経て、希望を失い退職を考えたりするケースが増えているという。その他多くの教師が重い課題を抱え、一部に活力を衰退させているという指摘もある。この背景は複雑である。対策としては、何より各教師が幼児・児童生徒と人間として直接交流することの生きがいを実感させるようにしたい。そして、校長を中心に全教職員一体となって職務遂行に当たった満足感を味あせたい。

6. 保護者との交流の在り方について考える
 昨今、保護者を利害関係者と位置付け、学校と保護者の関係を利害で考えようという傾向が一部にあり、そのことが時に教師を苦しめているという指摘もある。たしかに、児童生徒の教育について保護者は第一の権利を持っており、この期待にこたえる義務は学校・教師にあると言ってよいかもしれない。しかし、同時に、初等・中等教育においては、国民としての基礎的・基本的な教育活動を実施する責任が国にあり、この観点から教育を考えることが必要になる。 
 何よりも、両者は対立する関係であってはならない。児童生徒の人間的成長を促進するという共通の目的のため、協力し合う関係でなくてはならない。管理職は、そのことを多様な機会を活用して保護者・教職員に語ることが必要である。同時に学校として、保護者との正しい交流の在り方について共通理解を得るように努める必要もある。

7. 教職員の間に協力的な雰囲気を醸成する
 何より、学校全体に協力的な雰囲気を醸成することが必要ではないであろうか。教員の多忙化がメンタルヘルス維持のひとつの障害になっているという見解もある。しかし、教員の多忙感は、他の職業と少々異なっている。例えば、授業での工夫あるいは課題を抱えている児童生徒への指導・支援など教師は常に考えている。教師の職務は、自分がいかに生きるかと常に連動しており、多忙即疲労にはならない。むしろ、課題解決への努力の失望感とか孤立感などが疲労の大きな要因になる。いろいろ授業の工夫をして成果をあげた時の充実感・みんなと協力して課題解決を遂げた時の満足感こそが、教師を元気付ける元となる。このような、感覚を味わえる雰囲気を醸成したい。
 その際、ひとつの留意点として教員以外の職員との協力体制の整備がある。この点も含めて校長の配慮が必要になる。

8. 主幹教諭・主任教諭等への指導
 昇任、異動は環境や複数の変化が重なり、心身両面の負担やストレスが大きくなりやすい時である。不慣れな状況では、通常以上に健康状態に気を付けつ必要がある。転勤時に限らず、気になることが続くような時は、早めに、気軽に各種の相談窓口を利用することが望ましい。
 現実問題として、校長が注目する以前に同僚教師等はその実態を漠然とであるが、承知をしている場合が多い。[メンタルヘルス不調者]として認識する以前に同僚の支援が重要になる。特に、副校長をはじめ主幹・主任教諭の役割は重要である。

9. 教師としての生きがいを向上させる
 教師という職業は、児童生徒の人間的成長を計画的に促進するというやりがいのある職業であり、それに従事することは楽しく生きがいを感ずることができるはずであるが、現実直面する多様な業務に追われ、生きがいを感ずる状況にないという指摘もある。校長として職場環境を整備することも大切である。大いに期待したい。
以 上   

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