提言85: コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の定着を図ろう!

 2004(平成16)年3月、中央教育審議会(中教審)は「今後の学校の管理運営の在り方について」の答申を行い、各学校の運営に保護者や地域住民が参画することを通じて、学校の教育方針の決定や教育活動の実践に、地域のニーズを的確かつ機動的に反映させるとともに、地域ならではの創意や工夫を生かした特色ある学校づくりが進むことを期待して、新しいタイプの公立学校の導入を求めた。
 この答申を受ける形で、同年6月に「地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)」の改正が行われ、同法第47条の5に「学校運営協議会」についての規定が盛り込まれた。
 この改正によって生まれた「学校運営協議会」は、学校の運営について、一定の範囲内で法的な効果を持つ意思決定を行うことができる合議制の機関として、法的に位置付けられたのである。
 この結果、コミュニティ・スクールとは、学校内に「学校運営協議会」を設置し、教育委員会から任命された保護者や地域住民等が一定の権限と責任を持って学校運営の基本方針を承認したり、教育活動について意見を述べたりすることができるタイプの学校である、との性格付けがなされた。このことによって、コミュニティ・スクール(学校運営協議会)の設置が全国的に求められることになったのである。
 本提言85では、学校と保護者、地域社会とのかかわりが強く求められようになった背景を明らかにし、学校運営協議会の役割について、見解を述べることとした。
 
1. コミュニティとは何か、を考える  
 第二次世界大戦後、高度経済成長期[前半は朝鮮特需(1951年)から神武・岩戸・東京オリンピック景気(1964年)までの期間、後半はいざなぎ景気(1966年)から平成景気(1992年)までの期間]を経て、戦後経済は大きく発展した。都市部の経済的発展は、労働者人口の地方から都市部への移動を促し、若者が生まれた地域を離れて都市部に移り、都市部では地域との関わりを持たない居住者が数多く生活するようになった。
 また、地域と学校の関係においても、教職員の職住分離が進むことによって、また、教師の多忙化などによって、学校を核として形成されてきた、これまでの地域共同体という結びつきが弱まり、人間関係も希薄になるという状況がつくりだされてきたのである。
 このような社会の変容は、非行、校内暴力、いじめ、不登校、登校拒否などで代表される「教育の荒廃」といわれる状況を生み出した。1997(平成9)年頃の公立中学校での校内暴力件数は、18.209件であったが、3年後の2000(平成12)年には27.293件に増加する。(注1)また、不登校の児童生徒数も増加するなど、社会全体のモラルの低下が問題視されるようになった。
 これらの問題に対する学校の対応については、画一的であり、硬直的であり、十分に対応していないという指摘が保護者や地域社会から批判的に出されるようになった。
 1996(平成8)年、中教審は、「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」と題する答申を行った。答申では、「生きる力」とは、「これからの変化の激しい社会において、いかなる場面でも他人と協調しつつ自律的に社会生活を送っていくために必要となるのが、人間としての実践的な力である」(注2)と述べるとともに、「生きる力」を育むためには「家庭や地域社会に対して積極的に働きかけを行い、家庭や地域社会とともに子供たちを育てていくという視点に立った学校運営を心掛けることは極めて重要なことである。
kyougi     そこで、学校は自らをできるだけ開かれたものとし、かつ地域コミュニティにおけるその役割を適切に果たすため、保護者や地域の人々に、自らの考えや教育活動の現状について率直に語るとともに、保護者や地域の人々、関係機関の意見を十分に聞くなどの努力を払う必要がある。」(注3)と、三者の連携の必要性を述べている。
 しかし、地域社会における共同という結び付きが失われ、家庭においては個人化が進み、教育力が低下していく状況にあって、学校が教育活動に専念することができたとしても、生徒指導などの面で、これまで学校が関わってきた家庭、地域社会とのつながりが、担い手がいないままに放置されることによって、学校の持つ教育力の低下に繋がっていくということは容易に想像できるところである。

2.学校評議員制度の成立  
 学校教育の置かれた危機的な状況に対して、(1)生きる力を身に付け、新しい時代を切り拓く積極的な心を育てよう、(2)正義感・倫理観や思いやりの心など豊かな人間性を育もう、(3)社会全体のモラルの低下などを問い直そう などの取り組みを学校に求めたのが、1998(平成10)年6月に提出された「新しい時代を開く心を育てるために―次世代を育てる心を失う危機」と題した中教審答申である。この答申には、地域社会の力を生かして問題解決に取り組むことへの期待が込められている。
 さらに、中教審は、同年9月、「我が国の地方教育行政の今後の在り方について」の答申を行った。その第3章で、「地域住民の学校教育への参画」を求め、地域社会に開かれた学校づくりを一層推進していくために、保護者、地域住民などとの間で、互いに意思の疎通を図り、協力関係を高めることを求めたのである。
 その後、2000(平成12)年1月21日、学校教育法施行規則が改正された。その第49条に「学校評議員制度」についての規定が設けられ、その設置が求められた。
kyougi     「学校評議員制度」は、校長によって委嘱された学校評議員が、校長の求めに応じて、個人としての立場で、学校運営に関して意見を述べるという制度である。しかし、学校評議員の意見は、校長や教育委員会の学校運営に直接関与したり、拘束力のある決定を行ったりすることは認められていないという制度でもある。
 「学校評議員制度」は、校長によって委嘱された学校評議員が、校長の求めに応じて、個人としての立場で、学校運営に関して意見を述べるという制度である。
 これを契機に、日本の各学校に「学校評議員制度」が導入されていく。2004(平成16)年7月に文科省がまとめた「学校評議員等」を置く学校は、幼稚園・23.9%、小学校・77.2%、中学校78.6%、高等学校86.9%、盲聾養護学校85.2%となっており、その普及の速さに驚くとともに、その機能が十分に果たされていることに期待するところ大であった。
  学校が、学校評議員を通して、
 @ 保護者や地域住民等の意向の把握し、学校運営に反映させる。
 A そのことを通して、保護者や地域住民等の協力を得る。
 B 学校経営の状況等について学校評議員を通して保護者、地域住民等に周知する。
   といったことを踏まえ、家庭、地域社会との連携を進めることを期待したのである。
 
3.コミュニティ・スクールと学校運営委員会
 21世紀を目の前にした2000(平成12)年3月、21世紀の日本を担う人間性豊かな日本人の育成を目指し、教育の基本にさかのぼり、幅広く今後の教育の在り方を検討するという目的を持つ「教育改革国民会議」が設置された。この国民会議の最終報告「教育を変える17の提案」の「1.私たちの目指す教育改革」の中に、「これからの教育を考える視点」の項目がある。この内容の最後の部分に、「親は我が子が安心して通える学校であって欲しいと願っている。そのためには、学校が孤立して存在するのではなく、親や地域とともにある存在にならなければならない。
 よい学校になるかどうかはコミュニティ次第である。コミュニティが学校をつくり、学校がコミュニティをつくるという視点が必要である」と述べられており、「新しいタイプの学校(コミュニティ・スクール等)の設置を促進する」ことが求められた。また。地域独自のニーズに基づき、地域が運営に参画する新しいタイプの公立学校(コミュニティ・スクール)を市町村に設置することの可能性を検討する(中略)、学校経営とその成果のチェックは、市町村が学校ごとに設置する「地域学校協議会」が定期的に行うといった提案がなされたのである。
 この教育改革国民会議の最終報告を受けて、内閣府に設置されたのが「総合規制改革会議」である。この会議の答申の中で、教育の分野において、学習者に支持される学校づくりを学校と地域が連携して行うことが求められた。これを受けて「規制改革推進3か年計画」(コミュニティ・スクール導入のための法制度整備に向けた実践研究の整備)、「地方公共団体等による構造改革特区への提案」(地域の特性やニーズに応じた多様な教育の提供)等が行われ、コミュニティ・スクールの実践研究及び制度化が推進されることになった。
 2004(平成16)年3月、中教審は「今後の学校の管理運営の在り方について」の答申を行い、この中で、地域が参画する新しいタイプの公立学校の形を示した。また、同年6月には「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の改正を行い、同法第47条の5にコミュニティ・スクール(学校運営協議会)についての規定を盛り込んだ。この結果、コミュニティ・スクールの制度に法的な裏付けが行われたことになる。
 正された「地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)第47条の5」 の条文を要約すると下記のようになる。
 @ 教育委員会は、その所管する学校のうち、その指定する学校(以下「指定学校」 という。)の運営に関して協議する機関として、指定学校ごとに、学校運営協議会 を置くことができる。その委員は教育委員会が任命する。
 A 指定学校の校長は、教育課程の編成その他について、基本的な方針を作成し、学   校運営協議会の承認を得なければならない。また、学校運営協議会は、指定学校の運営について、教育委員会や校長に対して、意見を述べることができる。
 B 学校運営協議会は、指定学校の職員の採用その他の任用に関する事項について、当該職員の任命権者に対して意見を述べることができる。
 C 教育委員会は、Bの事項によって述べられた意見を尊重する。
 など、この改正によって、学校運営協議会は、学校の運営について、一定の範囲内で法的な効果を持って意思決定を行うことのできる合議制の機関である、と位置付けされたのである。
 この結果、コミュニティ・スクールとは、「学校運営協議会」が指定学校ごとに設置され、教育委員会から任命された保護者や地域住民等が一定の権限と責任を持って学校運営の基本方針を承認したり、教育活動について意見を述べたりすることができる学校、といった性格付けが行われたことになる。HTML
 コミュニティ・スクールは保護者や地域の住民が一定の権限と責任をもって学校運営協議会を通して、学校運営に参画し、協議の場を通して保護者や住民が求めている学校に対するニーズを迅速に、そして的確に把握して学校運営に反映させる。このことによって、学校・家庭・地域が一体となってより良い学校の実現のために取り組むということを目的とした制度である。
 教育の場において、「開かれた学校」の必要性はこれまでも論じられてきたが、この実現を目指すという積極的な姿勢が学校に見られないのも事実であった。
 学校は、地域社会と良好な連携・協力関係を維持し、地域社会と共に発展するように努める必要があり、小・中・高校においては積極的に地域社会の教育力を活用すること、その一方で、学校の持つ教育力を地域社会に提供するということが必要であるとの考えが理解されるようになってきた。
 2013(平成25)年6月14日に閣議決定された「第2期教育振興基本計画」によると、コミュニティ・スクールを全公立小学校の1割、約3,000校に拡大するという推進目標が掲げられている。
 1915(平成27)年6月16日、文科省は、コミュニティ・スクールに指定された公立学校数が4月1日現在で、2,389校に増えたことを公表している。≪参照:資料1≫

 4. 日本におけるコミュティ・スクールの運営
 地域社会に存在する様々な教育資源(人的・物的)、あるいは機能を学校が活用する。一方、学校が有している教育資源や機能を関係する地域社会に提供、貸出をする、このような関係を有する学校を一般的にコミュティ・スクールと呼んでいる。
 コミュティ・スクールについては、1930年代末のアメリカにおいて、E,G,オルセンらによって提唱されたといわれており、「地域社会学校」といわれていた。 コミュティと学校がしっかりと結びついて「人間」を作りだす。これがねらいであるとされている。すなわち、地域社会の一員として生活するために、それに必要な知識や技能などを伝え、地域社会を構成する一員になってもらうために支援するというものである。
 一方、イギリスでは、1970年代から「学校理事会制度」に基づく学校経営、運営が行われてきた。「学校理事会」が意思決定機関として教育課程の編成方針を決定するなど、強い権限を持ち、校長は教育課程を編成するなど、執行機関として立場に置かれたのである。
 日本では公立学校の運営は、関係法令に基づき、教育委員会及び校長の権限と責任のもとで行われており、教育内容の確実な保障など、重要な役割を果たしてきた。しかし。その一方で、学校の運営の状況が保護者や地域住民等に分かりにくく、学校は閉鎖的で画一性であるとの指摘もされていた。
 このような中にあって、学校と地域社会との連携・協力をさらに一段と進めて、地域の力を学校運営そのものに生かすという発想が出てきた。2000(平成12)年の「教育改革国民会議報告」に、「新しいタイプの学校(コミュニティ・スクール等)の設置を促進する」との提言がなされた。このことを受けて、文科省は2002(平成14)年度からモデル校を指定し、新しいタイプの学校運営の在り方に関する実践研究を進めてきたのである。
 コミュニティ・スクールの中心をなす学校運営協議会の役割は、
 @ 校長の作成する学校運営の基本方針を承認する
 A 学校運営について、教育委員会または校長に意見を申し出る
 B 教職員の任用に関して、教育委員会に意見を申し出る
 の3点である。このことから、学校運営協議会は意見を申し出る機関であって、その意見は慶長の必要はあるが、校長の専権事項である学校経営に対して、これに踏み込むという権限は有してはいないということができる。
 
 5. コミュニティ・スクールの定着を図る
 中教審が、2013(平成25)年12月に出した答申、「今後の地方教育行政の在り方について」の中で、「今後、学校運営の充実や学校・家庭・地域の協働体制の構築に向け、コミニティ・スクールの一層の拡大と充実ガ必要である」と述べたのも、学校は地域社会を基盤として存在するものであり、充実した学校教育の実現のためには、学校・家庭・地域社会の連携・協力が不可欠であるとの認識からである。
 最初、学校運営協議会については、その出発点において、学校運営協議会はイギリスの「学校理事会」のように強い権限を持って、学校経営に臨むべきとの考え方と、学校運営協議会は、校長の学校経営の具現化のために、その後ろ盾、強力なバックアップを行う学校応援団といった性格のものであるといった考え方とがあった。
 現在は後者の考え方が多く支持されている傾向にある。
 地域の参画・協働による学校改革が進展している例として、秋田県由利本荘市の「学校力を活かした地域づくり、学校と地域の協働作業(ひまわり一万本プロジェクト)」への取り組み、山口県防府市の「故郷への誇りと愛着を持ち、グローバルな視野で社会に参画する(学校施設を活用した公民館活動の展開)」ことへの取り組み、高知県大川村の「地域協働による体験・交流活動〔村の特産物・村の課題の探究〕」などの活動が、文科省の資料で紹介されている。また、都市部でのコミュニティ・スクールとしての活動例として京都市の取り組みなども紹介されている。(注4)
kure     東京への一極集中が進む一方で、多くの地域で若者がそれぞれの地域から姿を消すという状況があることは前述の通りである。一方、新たに若者が集まる都市部においては、地域で新しい共同体をつくり、地域でまとまろうという動きが十分に見えてこない状況にある。日本全体が成長する、このために都市部、それ以外の地域においても、改めて学校を核とした地域づくりを行うことが重要である。
 すべての学校をコミュニティ・スクール化することを期待している、教育再生実行会議の有識者委員である貝ノ瀬 滋東京都教育会会長は、コミュニティ・スクールが受け入れられにくい要因の1つに、学校運営協議会の役割の中に「教職員任用への意見」を申し出ることができるとあることについて、学校の管理職、教職員に十分に理解されていないことがあるのではないか、との懸念を示している。(注4)
  学校が積極的に地域づくりに参画する、これからは学校が積極的に地域に出ていくことが求められている。子どもたちの生命・財産を守る、このことは、地域の人々の生命・財産を守ることに繋がる。学校も、保護者も、地域も、一緒になって考える時代になっている。2015(平成27)年7月に岩手県で中2男子が電車に飛び込み自殺した。学校、家庭、地域社会の連携が叫ばれてから久しい。しかし、残念ながらその連携が進んでいないという状況がここでは明らかになった。
 学校は日頃把握した情報をどのように学校内で共有し、解決に向けて取り組むのか、問題が起こってからではなく、保護者、地域と日頃から協力して、情報を交換し、問題の解決に努める。これが「学校評議員制度」であり、「学校運営協議会制度」である。
 これからは新しい地域づくりに積極的に学校が努力する、このために、学校に勤務する教職員の力量が十分に発揮されるよう、管理職は学校経営、学校運営への関心度を一層高める必要が重要である。「学校評議員制度」、「学校運営協議会制度」いずれの制度であれ、管理職の意識の高まり、これが重要である。
 近時、社会からコミュニティ・スクールへの関心が高まり、そして、その取り組みへの期待が強く期待されている今こそ、学校は改めて教育を考えるいい機会であり、実践を見直すよい機会であると自覚し、行動することが大切であると考える。
◆ 参考文献
注1: 文部科学省・「生活指導上の諸問題の現状について」 2004年
注2: 中教審答申・「第1部 今後における教育の在り方」 1996年
注3: 中教審答申・「第4章 学校・家庭・地域社会の連携 〜開かれた学校 〜」 1996年
注4: 貝ノ瀬 滋・「これからの日本の教育を考える」」(東京都教育会教育講演会資料)2015年

◆ 資料 1: コミュニティ・スクールの指定状況
kure   

◆ 画像:Yahoo
( 2015/07/21 記)  

以 上


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