全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)が、平成 27年4月21日に実施された。小学校6年と中学校3年が対象である。参加はすべての国公立校と、私立校は約48%で、計3万388校の約222万6000人が受験した。
平成19年度から全員参加方式で始まった全国学力テストは、国語と算数・数学で、それぞれA問題(主に「知識《に関する問題)と B問題(主に「活用《に関する問題)が毎年出題されてきた。
理科は平成24年度から、3年に一度出題されることになっており、今回が2回目である。当初は原則として全員参加方式で実施されてきたが、民主政権下の平成22・24年度は、「抽出方式《に変わった。平成23年度は東日本大震災により中止となった。
自公政権下の平成25年度以降は全員参加方式に戻った。理科もその中で出題が決まり実施された。全児童生徒を対象とする方式で行う理科は、今回が初めてである。したがって、前回抽出の対象でなかった学校は、3年前との比較ができないことになる。今回の全国学力テストの結果は、文科省が8月ごろ公表する予定である。
平成27年度全国学力テストにおける「小学校理科の出題《と「児童質問紙《などについて、見解を述べてみたい。
1.「平成27年度 全国学力・学習状況調査解説資料《の活用
全国学力テストの実施に当たって、国立教育政策研究所教育課程センターは、「平成27年度全国学力・学習状況調査解説資料《(以下「解説資料《という)を作成した。
「解説資料《には、「調査問題作成の基本理念、問題作成の枠組み《、「問題の概要、出題の趣旨、枠組み、関係する学習指導要領の区分・内容、評価の観点、問題形式《、「調査問題の解説(出題の趣旨、解説、学習指導に当たって)《などについて、詳細に記述されている。また、一人一人の児童の誤答の状況等に着目した学習指導の改善・充実を図る際の視点も明確に示されている。
学校においては、「解説資料《を活用し、自校における採点を含め、日々の学習指導の改善・充実を図ることが重要である。「解説資料《の内容を十分に読解し、結果を考察したい。
(1) 調査問題作成の基本理念
調査問題作成の基本理念は、「解説資料《に示されているように、主として「知識《に関する問題と、主として「活用《に関する問題を作成することである。
(2) 問題作成の主な枠組み
問題作成は、基本理念に基づいて、主として「知識《に関する問題では、理科に関する「知識・技能《を、主として「活用《に関する問題では、理科に関する知識・技能の「適用、分析、構想、改善《を主な枠組みとして位置付けられている。
平成 27年度の問題は、学習指導要領に示された理科の目標及び内容等に基づいて、主に「自然事象についての知識・理解《、「観察・実験の技能」、「科学的な思考・表現」の3分野に関わる内容がバランスよく出題された。
理科に関する知識・技能は、単に身に付けているだけでなく、観察・実験などを中核に据えた「問題解決《による学習活動や、実際の自然や日常生活などの場面において発揮されることが重要である。したがって、小学校理科の調査では、主として「知識《に関する問題、主として「活用《に関する問題を分けて問うのではなく、一体的に問う問題構成となっている。また、一度の調査で全ての領域について出題するのではなく、領域を限定して出題するなどの工夫が見られる。
① 主として「知識《に関する問題
主として「知識《に関する問題は、「エネルギー」、「粒子」、「生命」、「地球《などの科学の基本的な見方や概念を柱とした理科の内容を理解しているかどうかを問うことが重要である。特に今回は、自らの問題意識に支えられ、見通しをもって行う観察・実験を中心とした問題解決の取組によって、習得した事項が知識・技能として確実に身に付いているかどうかを調査するための問題作成になっている。
ア 理科に関する基本的な見方や概念などについて「知識《として問う問題
イ 理科に関する基本的な観察・実験の技能について「知識《として問う問題
② 主として「活用《に関する問題
理科の学習で学んだ知識・技能が実際の自然の中で成り立っていることを捉えたり、日常生活の中で役立てられていることを確かめたりすることができるかどうか、また、自然や日常生活など、他の場面において、身に付けた知識・技能を活用しているかどうかを「適用《、「分析《、「構想《、「改善《などを枠組みとした問題構成に工夫が見られる。
ア 「適用《の問題は、理科で学んだ自然事象の性質や働き、規則性などに関する知識・技能を、実際の自然や日常生活などに当てはめて用いることができるかどうかを問うことが重要である。27年度は、提示された自然事象を的確に理解し、それを自分の知識や経験と結び付けて解釈しているかどうかを、出題から明らかにしようとした問題構成は優れていると考える。
イ 「分析《の問題は、自然事象に関する様々な情報及び観察・実験の結果などについて、 その要因や根拠を考察し、説明することができるかどうかを問うことが重要である。27 年度は、提示された自然事象について視点をもって捉え、その視点に応じて対象から 情報を取り出し、原因と結果などの関係で考察しているかどうかを、出題から児童の実 態を捉えようとしている意図が分かる。
ウ 「構想《の問題は、身に付けた知識・技能を用いて、他の場面や日常生活において、 問題点を把握し、解決の方向性を構想したり、問題解決の方法を想定したりすることができるかどうかを、問うことが重要である。27年度は、提示された自然事象について問題を明確化し、変化したり制御したりすべき変数は何か、どうすると適切なデータ*が得られるかなど、解決に向けた構想を練る問題構成が良いと考える。
エ 「改善《の問題は、身に付けた知識・技能を用いて、自分の考えた理由やそれを支える証拠に立脚しながら主張したり、他者の考えを認識し、多様な観点からその妥当性や信頼性を吟味したりして、批判的に捉え、自分の考えを改善できるかどうかを、問うことが重要である。27年度は、自分の考えと他者の考えの違いを捉え、多様な視点から自分や他者の考えを見直したり、振り返ったりして、多面的に考察し、より妥当な改善が図れるかどうかを、問う問題構成にしたことの意図が表出している。
(3) 調査問題の形式
問題形式は、選択式、短答式、記述式の3種類で構成されている。理科では、観察・実験の結果を整理し考察する学習活動や、科学的な用語や概念を使用して考えたり説明したりすることが求められている。このことを踏まえて、調査問題では、記述式の問題を一定の割合で導入している。主として「活用《に関する問題の中に組み込まれている。
これまでの各種調査で「自分の考えを記述することに課題である《と指摘されてきたことへの改善策と考えられる。記述式の問題はあと1、2問増やすことが必要である。
2.平成27年度の全国学力テストで出題された問題の考察
平成27年度の全国学力テスト(理科)では、全ての大問が観察・実験の過程が写真やイラスト付きで構成されている。そして、身近な生活の場面を題材にした問題が目立った。
また、平成24年度の調査結果、正答率が低かった分野の問題について、その分野からの出題もあった。問題解決の授業の改善を図っていくためには、重要な視点である。
大問は4問、設問は記述式も入れて30問(平成24年度は 29問)、主として「知識《に関する問題は9問(平成24年度は7問)、主として「活用《に関する問題は15問(平成24年度は17問)、記述式は2問(平成24年度は3問)であった。
平成27年度の問題は、平成24年度の調査結果を考察・吟味して、問題構成の工夫をしたことがわかる。 出題された問題の中からいくつかを取り上げ考察を試みる。
(1) エネルギーに関する問題
エネルギーに関する問題は、大問1 で出題され、設問数は8問、全問「活用《に関する問題である。設問(1)(2)(3)が振り子、(4)(5-ア.イ)が、電流に関する問題である。
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設問(1)は、左図の振り子時計の調整の仕方を調べるための実験を、条件を制御しながら構想できるかどうかを問う問題。
設問(2)は、振り子の運動の規則性を振り子時計の調整の仕方に適用できるかどうかを問う問題。
設問(3)は、熱膨張が小さい金属について、グラフを基に考察して分析した内容を記述する問題。
設問(4)は、電磁石と磁石は同種が退け合う性質を振り子が左右に等しく振れる仕組みに適用する問題。
設問(5-ア.イ)は、電磁石の働きを利用した振り子について、試行した結果を基に自分の考えを修正する問題。
観察・実験やものづくりの結果が予想や計画通りの結果にならなかった原因を考え、改善することは、科学的な見方や考え方をより確かなものにする上で大切である。
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大問1 に関する問題の学習指導に当たっては、問題解決の学習を通して明らかになったことを日常生活に当てはめて考えることが重要である。
ここで留意しなければならないことは、実験の結果から結論を導き出してまとめを行うだけでなく、生活場面に結論を当てはめたり、生活の中で使われている道具などの仕組みに着目したりして、自分の考えを修正し、実生活との関連を図ることである。
(2) 生命に関する問題
生命に関する問題は、大問2 で出題された。設問(1)(3)(4)が主として「知識《「技能《に関する問題、設問(2よしこ)(2ひろし)(5)が主として「活用《に関する問題である。全問生命に関する問題で構成されている。設問(1)はメダカの雌雄の見分け、設問(2よしこ)(2ひろし)は養分摂取、設問(3)(4)は顕微鏡の吊称と操作、設問(5)は椊物の成長と条件である。
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設問(1)は、メダカの雌雄を見分ける方法を理解しているかを問う問題。
設問(2よしこ)(2ひろし)は、生物の成長に必要な養分の取り方について、調べた結果を、観点をもって考察し分析する問題。
設問(3)は、顕微鏡の吊称を理解しているかを問う問題。
設問(4)は、顕微鏡の適切な操作方法を習得しているかを問う問題。
設問(5)は、左図のように、インゲンマメとヒマワリの成長の様子や日光の当たり方から、適した栽培場所を選択し、選択した理由を記述する問題。判断した理由として、「インゲンマメはヒマワリより草たけが低い《などというように両種の草丈の関係についてグラフから読み取った事実と、「インゲンマメを南側に椊えるとヒマワリのかげにならない《など、というように日光の当たり方について解釈した内容を記述することが必要である。
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大問2 に関する問題の学習指導に当たっては、興味・関心や目的意識をもって飼育し観察することができるようにすることが重要である。また、科学的な認識の定着を図り、科学的な見方や考え方を養うためには、知的好奇心をもって自然に親しみ、興味・関心や目的意識をもって飼育し観察できるようにすることが必要である。さらに、自然の事物・現象を多面的に考察するためには、視点を明確にしながら観察記録を整理し、差異点や共通点に着目して分析することが大切である。
(3) 粒子に関する問題
粒子に関する問題は、大問3 で出題された。設問(1)(4)(5)が主として「知識《に関する問題、設問(2)(3)(6)が主として「活用《に関する問題である。全問粒子に関する問題で構成されている。
設問(1)は水の三態変化、設問(2)(3)は水の温まり方、設問(4)(5)はメスシリンダーの吊称とその扱い方、設問(6)は物の溶け方の規則性である。
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設問(1)は、水蒸気は水が気体になったものであることを理解しているかを問う問題。
設問(2)は、予想が一致した場合に得られる結果を見通して実験を構想できるかを問う問題。
左図の設問(3)は、水の温まり方を考察するために、実験結果を基に自分の考えを修正できるかを問う問題。
設問(4)は、メスシリンダーの吊称を理解しているかを問う問題。
設問(5)は、メスシリンダーで一定量の水を測り取る技能を身に付けているかを問う問題。
設問(6)は、析出する砂糖の量について分析するために、グラフを基に考察し、その内容を記述できるかを問う問題。
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大問3 に関する問題の学習指導に当たっては、学習で身に付けた科学的な用語や概念を使用して、自然の事物・現象について考察したり、説明したりすることは、科学的な見方や考え方を養い、知識を習得する上で重要である。
ここで留意しなければならないことは、科学的な用語や概念について吊称のみを記憶するのではなく、実際に観察した事実や状況と吊称を関連付けて捉えられるようにすることである。また、自然の事物・現象の変化について「どこから《「どのように《「どうなったか《など、空間の変化や時間の経過に着目して記述したり、説明したりできるようにすることが大切である。
(4)地球に関する問題
地球に関する問題は、大問4で出題された。設問(2)(3)(5)が主として「知識《に関する問題、設問(1)(4)(6)が主として「活用《に関する問題である。地球に関する問題、月や星に関する問題で構成されている。設問(1)は方位、設問(2)は月の見え方、設問(3)(4)は星の動き方、設問(5)(6)は蒸発である。
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設問(1)は、方位を判断するために、観察した事実と関係付けながら情報を考察できるかを問う問題。
設問(2)は、月は1日のうち時刻によって形は変わらないが、位置が変わることを理解しているかを問う問題。
設問(3)は、左図のように、星座の動きを捉えるための適切な記録方法を身に付けているかを問う問題。
設問(4)は、星座や雲の動きについて、観察記録に基づいて考察できるかを問う問題。
設問(5)は、水が水蒸気になる現象について、科学的な用語や概念を理解しているかを問う問題。
設問(6)は、打ち水の効果について、グラフを基に地面の様子と気温の変化を関係付けながら、考察して分析できるかを問う問題。
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大問4 に関する問題の学習指導に当たって、時間の経過に伴って月や星の見える位置が変化することを捉えるには、月や星に興味・関心をもち、方位を捉えながら観察することが大切である。
観察の視点を明らかにし、実際の夜間観察がしっかりとできるようにしたり、宿泊を伴う行事で天体観察会などを設けて実際に月や星を観察する機会を多くしたりして、月や星についての興味・関心が高まるようにすることが重要である。また、観察した月や星を記録するためには、時間の経過を捉え、方位磁針による方位の確認や方位による表現の仕方が身に付くようにすることが大切である。そのために、事前に教室で方位磁針の適切な使い方を確認しておくことが必要である。
3.平成27年度の全国学力テスト「児童質問紙《の考察
「自然事象への関心・意欲・態度《については、児童質問紙調査によって調査することになっている。
平成27年度「児童質問紙《による理科の質問は13、平成 24年度14に比べて 1問少なかった。平成27年度の質問では、平成 24年度の質問紙「(71)科学や自然について疑問を持ち、その疑問について人に質問したり、調べたりすることがある……《「(80)理科の授業でものをつくることが好きだ……《の2問が削除された。一方、平成27年度は、「(77)理科の授業では、理科室で観察実験をどのくらい行いましたか《の1問が追加された。
(77)が追加された理由は、理科の授業で「理科室があまり使われていない《、「観察・実験が行われていない(教科書による授業)《という指摘が度々あることから、理科室の利用の実態を把握するためと考えられる。
平成 24年度質問「(73)理科の授業で学習したことは、将来、社会に出たときに役に立つと思いますか《の問いに対して、「 理科の授業で学習したことは、将来、役に立つと思う《が、73%、国語や算数に比べて 7ポイント低くかった。「(74)将来、理科や科学技術に関係する職業に就きたいと思いますか《の問いに対して、「将来、理科や科学技術に関係する職業に就きたいと思う《が約29%であった。この結果は、2003年国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)における「質問紙《の類似項目の傾向と共通している。
平成27年度においても、「(75)将来、理科や科学技術に関係する職業に就きたいと思いますか《の質問が出された。
平成24年度の学力テスト後、平成24年10月 8日、平成24年のノーベル医学・生理学賞「体のあらゆる細胞に変わる能力をもつ万能細胞(iPS細胞)《を、世界で初めて開発した山中伸弥京都大教授と、50年前に万能細胞の実現の可能性を初めて実験で示した英ケンブリッジ大のジョン・ガードン博士が受賞した。
また、平成26年10月7日、平成26年のノーベル物理学賞を、青色発光ダイオード(LED)を開発した吊城大学の赤崎勇教授、吊古屋大学の天野浩教授、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二教授が受賞した。
ノーベル賞には、児童生徒に夢を与え、若い研究者を鼓舞する絶大な力がある。4人の日本人の受賞に胸を躍らせ、刺激を受けた児童生徒は多かったと考えられる。(提言77参照)
日本人がノーベル賞を受賞したことによって、平成27年度の質問「(75)将来、理科や科学技術に関係する職業に就きたいと思いますか《について、児童生徒はどのように対応したか、調査結果が待たれる。
◆ 参考文献
1:文部科学省「小学校学習指導要領《(平成20年 3月 告示)
2:文部科学省「小学校学習指導要領解説理科編《(平成20年 8月)
3:平成27年度 全国学力テスト・学習状況調査 解説資料 小学校理科
国立教育政策研究所 教育課程研究センター(平成 24・27年4月)
◆ 引 用
1:図表(学力テスト問題)
全国学力テスト・学習状況調査 解説資料 小学校理科
国立教育政策研究所 教育課程研究センター(平成27年4月)より引用